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04414.jpg 手前はこそばの「ざるそば」700円。奥は「てんぷら」300円。



「こそば」とは何か。それは貴重な「在来種」。入り組んだ谷間の奥深くに、奇跡のように生き残った、昔ながらの蕎麦



 ようやく到着した「こそば亭」だが、ここでまず、「こそば」とは、何なのかということを説明しておきたい。
 「こそば亭」という屋号は、「こそば」というソバの実から挽いた蕎麦粉で打った蕎麦を供するところから付けられた。では、その「こそば」とは、そもそもどういうソバなのだろうか。

 「こそば亭」のある場所は、新潟県の妙高山麓。この地で昔から栽培され続けているソバが「こそば」だ。最初にこのソバの実を見たとき、僕はこれが本当に「ソバ」なのだろうかと、信じられない思いがした。「こそば」は、それほど変わった形をしている。
 僕がそれまで見慣れていたソバは、三角おむすびのような、角が張った形をしていた。しかし、こそばはラグビーのボールを小さくしたようなプロポーションで、ソバの特徴ともいえる角は、ほとんどわからない。大きさも普通のソバの三分の二から半分くらいで、米粒ほどしかない。小粒のソバだから地元の人たちは「こそば」と呼んでいる。
 外観からしてソバらしからぬソバだが、食してみると、これが実に旨いのだ。甘み、香りともに、群を抜いている。
 なぜ、こんな変わったソバが、ここにあるのだろうか。
 それにはもちろん、理由がある。

 現在、日本で流通している蕎麦粉は、品種改良されたソバから製粉されたものが中心になっている。畑の収穫量を多くすることなどを目的に品種改良されたソバに対して、土地土地で昔から栽培され続けているその土地固有のソバを、「在来種」のソバという。在来種の特徴のひとつは、小粒なこと。こそばは、その在来種のソバなのだ。

 ソバという植物は、ハチなどの昆虫が花粉を運んで交配する他家受精作物のため、異なる品種を近くで栽培すると混交して、品種としての特性が失われてしまう。ソバを栽培する農家の多くは、収穫量の多い品種を育てたほうが収入が良いため、昔から栽培してきた在来種を播くことをやめて、品種改良したソバに切り替えたところが多い。だから日本各地の在来種は、ここ50年ほどの間に著しく減少し、収量の多い育成品種、登録品種に取って代わられてきた。

 それが「こそば亭」のある地域では、昔ながらの在来種がかろうじて生き残っている。
 なぜ新しい品種に切り替えずに、在来種を守り続けるのか。その理由を、こそばを栽培している阿部與司夫さん(79歳)は、次のように言う。
「こそばは何よりも風味が良いことが一番の魅力です。新しい品種は収量は多いのですが、実が大きいため、どうしても大味になってしまうのです。この地方では昔から大切なお客がくると、これはこそばだから旨いよと言って、御馳走したものです。こそばが旨いのは、地元ではあらためて言うまでもない常識なのです」

 こそばが、この地で生き残ってきたのには、実はもうひとつ大きな理由があった。
 地域のお年寄りは語る。
「ソバはここでは、本当に悲しい作物なのです。この地域では、平らな土地は日陰でも湿地でも、全部米を作ってきました。でも実った米のほとんどは、小作の対価として地主に支払わなければなりませんでした」
 ここは、コシヒカリで有名な魚沼のすぐそば。旨い米のできる土地なのに、多くの農家は自分たちで、その米を食べることができなかったのだ。だから代わりにソバを食べた。米が栽培できない山の斜面に、鍬(クワ)の端で穴を掘り、ソバの種を蒔いたものだという。

 昔の蕎麦の食べ方は、蕎麦団子にして汁の中に入れたり、アズキを煮た中に串柿を入れて甘みを出し、その中へ蕎麦のかたまりを入れて食べた。それが米に代わる主食だった。
 しかし、決しておいしいものではなかったと、お年寄りたちは口をそろえる。石臼で挽いたソバを篩(ふるい)でふるって蕎麦粉にしたのだが、網の目が粗いので殻まで入り込んで、ザクザクしておいしくなかった。噛んでいるうちに口の中で量が増えてきて、飲み込もうとしても喉を通らなかった。子供は泣きながら食べたものだという。
「だから土地の人たちは、蕎麦というといやがります。蕎麦は不味いもの、貧しいものという認識です。30〜40年前まで蕎麦は、誰もが秘密にして食べていたものなのです」
 蕎麦はほかの農作物と異なり、収穫しても販売するような作物ではなかった。自分たちで食べるためだけのものだから、昔から細々と栽培してきた種を、そのまま使い続けてきた。蕎麦を食べるのは恥ずかしいことだという意識が、他品種に駆逐されることなく、こそばを現在に伝える大きな力になったのだ。
 こうして、こそばは、この地域の複雑に入り組んだ深い谷間の奥に、ひっそりと隠れるように生き残ってきたのである。

 「こそば亭」を切り盛りする、市村幸子さんは、こそばがおいしい訳を次のようにいう。
「この付近の土質は、妙高山から噴出した火山灰土と、樹木の落ち葉などが堆積した赤土有機土壌の2種類があります。赤土で育った山菜は、アクがなくて美味しいのですが、火山灰土に育つ山菜は不味いので、地元の人は知っていて誰も採りません。それは日曜日に町から車で来た人たちが、喜んで採っていきます(笑)」
 「こそば」は、その赤土有機土壌で栽培するから味が良くなる。さらにもうひとつ、この地域の蕎麦を美味しくさせる理由がある。
「オヤマボクチという野草の繊維をつなぎに練り込んで打つのが、この辺りの蕎麦の打ち方です。小麦粉をつなぎに使うと蕎麦に小麦粉の味が混ざりますが、オヤマボクチは繊維なので無味無臭。蕎麦の風味はそのままに、食感だけをコントロールできるのです」(市村さん)
 粗挽き粉で打った太めの蕎麦を一箸たぐれば、踊るようなコシ。蕎麦の香のする香草を食む心地さえする。
 土と気候と品種、そして栽培する人の蕎麦に対する深い知識と愛情。これらの要素がすべて揃って、初めて本当に旨い蕎麦ができるのだ。



左側が普通のソバの実。右側がこそば。収穫された実は交雑しているが、わかりやすいように、こそばだけを拾い集めて撮影した。

ソバの実.jpg



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こそば亭外観.jpg




料理を撮る.jpg

       こそば亭のおいしそうな料理に、思わずカメラを向ける。季       節の山菜を使うこれらの料理は、メニューには載っていな        い。その時期限定の、予約して注文する特別料理。








タケノコ.jpg

香りの強いヤマウドと、ネマガリタケの焼きタケノコ。







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柔らかな野沢菜漬けは、一度食べたら忘れられない。 









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すべての料理の味付けは、お見事です、の一言。 










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            手打ち蕎麦に適した良質な蕎麦粉は、しっとりし            ていて、握ると手の形に固まる。 

















































●お知らせ  
『こそば亭』は店の都合により、しばらく休業するとのことです。また再開しますが、そのときはこのサイトでお知らせします。

こそば亭

新潟県妙高市大字美守(ひだのもり)681-7
電話0255-72-8628
営業 11時30分〜13時30分 (昼だけの営業なのでご注意ください)
木曜日定休
最寄り駅はJR信越本線新井駅。徒歩20分。

●手打ちの生蕎麦の、宅急便配達による注文も受け付けています。
5〜7人前(1kg)、蕎麦つゆ付き 3500円(税込み)
別途、送料実費がかかります。
 注文はFAXで FAX0255-72-8626