「豆乳蟹そば」
福井の蕎麦といえば、越前おろし蕎麦が名高い。
伝統の郷土蕎麦として、越前おろし蕎麦は魅力的な存在だが、福井の蕎麦の食文化は、それにとどまらない。実に多くの個性的な蕎麦が、あでやかさを競う花園のように咲き誇っている。
そのひとつが「たからや」の「豆乳蟹そば」だ。
この蕎麦は、花園から選びぬいた幾種類もの花を、美しく切りそろえて花束にまとめたような、驚くべき蕎麦だ。
まず、麺について語ろう。
これは福井在来の早刈り蕎麦を、店主、宝山栄一(ほうやま えいいち)さんの卓越した蕎麦打ちの技術によって、細打ちに仕上げた蕎麦切り。早刈り蕎麦ならではの、野性を秘めた緑の香りを、巧みに引き出している。
この店では、早刈り蕎麦の風味に惚れ込み、一年中、すべてのメニューで、早刈り蕎麦を使っている。蕎麦店で使う材料としては、かなり贅沢な選択だ。大胆な決断であったと思う。
そして、蕎麦に向かう志の高さは、他の地域にはない蕎麦を生み出した。
蕎麦と豆乳が、これほど合うものだとは、誰が想像しただろうか。ふたつの食材を取り持つのは、4種類の鰹節を使った極上の出汁だ。そして丸みのある塩味は、白醤油の力。それらの個性を頂点でまとめるのが、日本海であがったズワイガニだ。野の幸、海の幸が、ひとつの器の中に、感動の物語を作り上げている。
福井の蕎麦は、こうあって欲しいものだ。
「たからや」の「豆乳蟹そば」は、福井蕎麦の華と呼ぶに相応しい逸品である。
たからや/福井市新田塚1-25-1
電話 0776-26-1175
営業 11~15時
17時~21時30分 (L.O.21時)
(土、日、祝は、中休みなし)
定休 水曜
「たからや」で人気の、早刈り蕎麦を使った九一の「野菜せいろ」。主人、宝山さんの目指す蕎麦は、凛として勢いがあり、鞭のようにしなる、生気あふれる蕎麦だという。