講師の槻谷英人さんの打つ蕎麦は、太くて黒いので、「できのよくない田舎蕎麦」のように、ザラザラした食感の良くない蕎麦だと勘違いされる方が、きっといらっしゃると思います。
しかし、そうではありません。
槻谷さんの蕎麦は、そういう蕎麦とは、天と地の違いがあります。食べてびっくり、感動の美味しさなのです。
どうぞ先入観を捨て、片山のお薦めを信じて体験してみてください。
蕎麦は食べてみなければわかりません。あなたのご存知ないすばらしい世界が、ここにあるのです。
この蕎麦の味を知らずに通り過ぎるのは、一生の不覚です。
島根県の観光地を訪ねると、出雲蕎麦を供する店がたくさんありますが、本来の出雲の郷土蕎麦は、それらの蕎麦とはちょっと異なるものでした。
出雲蕎麦の形が変わってしまった背景には、関東などからこの地を訪れる観光客の影響があります。観光客の望む形に合わせて、昔ながらの出雲蕎麦は、いつの間にか姿を変えてしまったのです。
そのあたりの事情もご紹介しながら、『ふなつ』主人、槻谷英人さんの、他には例を見ないほどの蕎麦打ちの妙技をご覧いただきます。
今回、受講生の皆さんに試食していただく蕎麦は、奥出雲地方の在来種「横田小そば」を使って打ちます。
これは10年ほど前には絶滅寸前の状態になっていたものを、槻谷さんを含め、地域ぐるみの努力で甦らせた貴重な蕎麦です。
めったにないこの機会に、槻谷さんの蕎麦打ちを見学し、「蕎麦とは本来、こういう味であった」という、すばらしい蕎麦の食味を体験してください。
『蕎麦Web検定大学』主宰 片山虎之介
【講座の詳細】
『蕎麦Web検定大学』第五回 課外講座『ほんとうの出雲蕎麦を知る』
期日 平成24年2月19日 (日曜日)
時間 12時から16時まで
会場 ふくい南青山291
(平成23年3月に第二回課外講座を行った会場と同じ場所です)
東京都港区南青山5丁目4-41 グラッセリア青山内
※ 東京メトロ千代田線・銀座線・半蔵門線 「表参道駅」B3出口より徒 歩5分
TEL:03-5778-0291
(会場へのアクセス)
http://fukui.291ma.jp/about/map.html
講座の内容
槻谷英人講師の「横田小そば」を使った蕎麦打ちを見学
「横田小そば」の「割子そば」と「釜あげ」を試食
槻谷英人講師と片山虎之介の、出雲蕎麦についての講義
受講料 12,000円
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● 受講のお申し込みは、以下の書式にご記入のうえ、メールを返信してください。
● 受付完了後に、受講料のお振り込み口座などをお知らせいたします。
『蕎麦Web検定大学』事務局
E-mail sobawebk@nifty.com
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第五回 課外講座『ほんとうの出雲蕎麦を知る』
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【参考資料】
以下は、片山虎之介が「Webサライ」に連載したエッセイ「蕎麦を待つ間に」の一部です。
【連載】蕎麦を待つ間に 第10回:名人の短い蕎麦
蕎麦は本来、長くつながっているものだ。だからこそ昔から歳時などに、「細く長く」の縁起をかついで食されてきた。
蕎麦を長くつなげるために、人々は様々な工夫を重ねてきた。良く知られているのは、小麦粉を「つなぎ」として蕎麦粉に混ぜる方法。さらに山芋を入れたり、海藻の「ふのり」を混ぜたりする方法もある。
古い例では江戸時代、寛永20年(1643)に発行された料理書『料理物語』の中に、蕎麦切りの作り方として「めしのとりゆにてこね候て吉」とある。「めしのとりゆ」とは、水の量を多くしてご飯を炊いたときに、余分な水分として取れる糊状の湯。つまり重湯(おもゆ)のようなものだ。この本が書かれた時代には、まだ小麦粉によるつなぎは普及していなかったので、それ以前は、つなぎが必要な場合、重湯のようなものを蕎麦粉に混ぜて打っていたことがわかる。
さて、長くつながっていることは、蕎麦が蕎麦と呼ばれるために、どうしても必要な条件のひとつとさえいえる。
しかし僕が知っている出雲蕎麦の蕎麦打ち名人は、短い蕎麦を打つ。箸でつまんで口に入れるとき、麺の長さは4~5センチ、あるいはもっと短いものもある。
名人の名前は槻谷英人(つきたに・ひでと)。槻谷名人の蕎麦を食べるには、東京から寝台特急に乗って11時間30分。島根県松江市まで、わざわざ行かなくてならない。この町で名人は『ふなつ』という小さな蕎麦店を経営している。
『ふなつ』を訪ねる旅は列車が似合う、と僕は勝手に思っている。東京-松江間900キロの距離を一気に飛び越えて、楽々着いてしまう飛行機ではなく、夜を徹して地を走り続ける列車で行かなくては、槻谷さんが魂を込めて作った蕎麦に申し訳ない気がするのだ。
「片山さん、僕はブツブツと、短く切れる蕎麦粉が好きなんです」と、槻谷さんは言う。その言葉通り、槻谷さんの作る「釜揚げ」は、とても短いうえにブツブツ切れる。そして、あっと言う間に、その麺もへたってヨレヨレになってしまう。しかし、これだけうまい蕎麦には、ちょっとやそっとでは、お目にかかれない。
熱々の釜揚げ蕎麦を口に入れると、蕎麦の温かさと優しい甘さが口中に広がり、プツプツした粗挽きの食感が舌にまとわりつく。たちのぼる香りは、冷たい蕎麦とは比べようもないほど強い。短い蕎麦は口の中で溶けて、茹で湯と混ざり、のどもとを過ぎて胃を温め、体中を幸福感で満たしてくれる。
釜揚げ蕎麦とは茹でた蕎麦を、そのまま茹で湯ごと丼に盛って客に供するもの。
通常、東京などの蕎麦屋さんで食べる温かい蕎麦は、茹であがった熱い麺を一度冷水で締めてコシを出し、それを再び熱湯にくぐらせて温め、丼に用意した熱い汁の中に入れて供する。丼に入った温かい蕎麦という外見は同じだが、作り方も味も、「釜揚げ蕎麦」とは、まったく異なる料理といえる。
槻谷さんの釜揚げ蕎麦は、どうしてこんなにおいしいのだろうと考えてみて、「そうか!」と気づいた。これは麺の形をした「蕎麦がき」なのだ。
蕎麦がきは、蕎麦粉を熱湯で捏ね、瞬間的に食べられる状態にする料理。蕎麦粉の持っている味を、損なわずに楽しめる食べ方だ。「釜揚げ蕎麦」は、一般的な「かけ蕎麦」と名前は同じ「蕎麦」だが、むしろ蕎麦がきに限りなく近い食べ方といえる。
この蕎麦のうまさは、もちろん槻谷さんの技術によって引き出されたものだが、その土台となるのは、ソバの実そのものに備わっている味の良さだ。材料のソバがおいしくなければ、いくら槻谷名人といえども、こんなにすばらしい蕎麦を作り出すことはできない。
槻谷さんは、松江から車で一時間ほど走った奥出雲町で栽培した奥出雲在来のソバを使っている。これは奥出雲付近で、遠い昔から栽培されてきたソバで、かつて蕎麦好き大名の松江藩主、松平不昧公が、将軍に献上したソバとして知られている。種実はとても小くて、風味に優れている。10年ほど前には奥出雲にも改良品種の栽培が広がり、奥出雲在来は絶滅の危機に瀕していた。それを槻谷さんもかかわり、奥出雲の町ぐるみで復活させたという経緯がある。
槻谷さんは、長らく奥出雲在来を使ってきたが、数年前、天候不良によるソバの不作の年があった。店で出す分さえ在来種の確保が難しい状況を体験して、槻谷さんは考え方を変えた。ソバの生産者が作りやすいやり方、品種で栽培してくれればいい。そう思える境地にたどりついたのだ。
在来種以外の品種でも、奥出雲のソバは秀逸だ。槻谷さんの腕なら、その味を完全に引き出して、うまい釜揚げ蕎麦を作ることができる。しかし僕は、叶うものなら、奥出雲在来100パーセントの『ふなつ』の釜揚げ蕎麦を、食べさせていただきたいと願っている。
槻谷さんは今も、奥出雲の農家に依頼してソバを栽培しながら、あいかわらずブツブツ切れる短い蕎麦を打っている。蕎麦は長いほうがいいか、短いほうがいいかと誰かが尋ねたら、僕は「うまいほうがいい」と答えようと思っている。
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