HOMEMagazine冬の寒さを越した春の蕎麦 > 高遠蕎麦のこと/片山虎之介=文

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会津北方には飯豊山の清冽な伏流水が湧出する。「夢見そば(水そば)」には、この水が必須の蕎麦つゆとなる

山と里の蕎麦食文化が混在する、会津蕎麦の大いなる魅力は、歴史の中で作られた

「会津蕎麦口上」にもあったように、会津の蕎麦の代表的な食べ方といえば「高遠蕎麦」だ。高遠というのは、信州・伊那の高遠のこと。大根の絞り汁を蕎麦つゆとして使う食べ方は、信州の高遠から伝えられたものだといわれている。
 高遠藩主であった保科正之(1611〜1673)が、会津藩主として赴いた折、たくさんの家来たちも同行した。高遠蕎麦の食べ方は、彼らと共に会津にやってきたのだろうか。

 現在、会津若松市で蕎麦店「桐屋」を経営する唐橋 宏さんは、子供のころ、高遠蕎麦を食べた思い出を次のようにいう。
「父親が、『今夜は蕎麦にすっからな』というと、喜んで高遠(大根)をおろしたものでした。大根の絞り汁の辛さが足りないときは、囲炉裏の真っ赤に焼けた炭火をひとかけらつまんで、汁の中に入れるんです。すると辛味が強くなって、ちょうど良くなるんです」
 唐橋さんのお父さんは、現在、会津の山都町で蕎麦店「なかじま」を経営する唐橋克巳さん。唐橋宏さんは、会津の蕎麦食文化にどっぷり浸りながら、大人になった人なのだ。

「父も蕎麦好きでしたが、祖父もそれを上回るほどの蕎麦好きでした。一番好きだったのは、蕎麦つゆを使わず、山の湧き水に蕎麦を泳がせて味わう食べ方でした。水だけで食べると、蕎麦のうまさが良くわかるといっていました」(唐橋宏さん)
 「桐屋」では、唐橋さんのおじいさんが好きだった食べ方を「夢見そば」と名付け、メニューに載せている。蕎麦をひたす水は、唐橋さんの実家がある山都町の湧き水を汲んできて使う。風味に優れた会津在来だからこそできる食べ方である。

 山都には山都の食べ方があるように、会津と一口に言っても、実に広範な地域が含まれる。会津盆地から只見線に沿って山間に分け入ると、やがて秘境、檜枝岐(ひのえまた)にたどりつく。ここは農村歌舞伎とともに、蕎麦の美味しさでも知られるところ。独特の蕎麦食文化があり、「裁ち蕎麦」という神業とも思えるほどの、蕎麦の作り方が守り伝えられている。

 檜枝岐の蕎麦は奥が深いので、詳しく紹介するのは次の機会に譲るが、山間部にはその地域ならではの特色があり、会津盆地とは、ひと味違った蕎麦が存在する。幅広く、奥も深い蕎麦の世界が息づく会津は、蕎麦の聖地といっても過言ではない。

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大自然の豊かな恵みが、この一椀に凝縮されている。 「夢見そば(水そば)」 530円 桐屋


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保科正之が居城とした会津若松城。戊辰戦争で焼け、現在の建物は昭和40年に再建されたもの。

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