朝日を浴びて、ソバにかけられたクモの巣が輝く。昆虫が棲息する畑の作物なら、安心だ
在来種の花が咲き乱れる会津地方に、
今、蕎麦の歴史始まって以来の
変革の時が訪れた
人知れず花咲く、山間部のソバ畑。
会津の在来種については、一般の人にはあまり知られていないが、実は大変な魅力にあふれたソバなのである。
会津地方には、地域ごとにそれぞれ、昔から栽培され続けている在来種のソバがある。会津在来と呼ばれるもののほかに、山都町に見られる山都町在来、下郷町で栽培される下郷町在来など。それぞれ、草丈や粒の大きさ、枝分かれの多少などに特徴があり、風によって倒伏しにくいとか、枝の分岐が多くて実入りが良いなどの個性を持っている。
現在、蕎麦の品種では、1994年に長野県で育成された「信濃1号」が、どんな土地でも育てやすく、収量も多くて高い評価を得ているが、この品種は会津在来から育成されたものである。信濃1号は長野県内を始め、秋ソバを栽培する広範囲な地域で栽培されている。会津在来は、こうした品種の母体となった優れたソバなのである。
その会津で、現在、新しい蕎麦の品種の開発が進められている。通常、品種改良を行うと、同じ面積の畑からの収量を上げるため、蕎麦の実の大粒なものを選抜して育種する方法がとられる。そのため、どうしても大味になりがちだ。ところが会津の場合はちょっと違って、味を落とさないための配慮がなされているのだ。
会津在来特有の風味を損なわないように、粒の大きさは比較的小粒なものを選び、そこから新品種を育てようとしている。つまり候補となったソバの実の大きさに大、中、小の三種類があったとする。この中から最も大きな実は選ばず、中程度の実のソバを選択して、これを新品種として育てていく。そうすれば、大味になることを極力抑え、以前より収量は多く、安定した収穫が期待できるのだ。
育種の過程で、何度も食味試験が繰り返され、従来の在来種にひけをとらない品種を作り出す努力が続けられてきた。
姿が見えてきた新品種の名前は「会津のかおり」。味と香りを大切にして開発したソバにふさわしい名前といえるだろう。今年、2008年の秋には、そろそろ収穫され始める。まだ、すべての蕎麦屋さんに用意することはできないが、順次、「会津のかおり」を使う店は増えていくことだろう。
新品種もいいが、本来の会津在来の味はやはり素晴らしい。ほかの蕎麦好きの人に先んじて新・旧の両方を食べ比べ、味についてうんちくを語るのも、また蕎麦好きの楽しみである。
今年は会津蕎麦から、目を離すわけにはいかない。