HOMEMagazine蕎麦をデザインする > 白い蕎麦と黒い蕎麦/片山虎之介=文

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『そば蔵 谷川』の水回しは独特。まるで子供が水遊びをしているように、水と蕎麦粉をゆっくり馴染ませていく。
『そば蔵 谷川』
福井県越前市深草2-9-28
TEL.0778-23-5001

蕎麦打ちとは「部品」を組み立てる作業

 写真と文 = 片山虎之介

このようにして作った何種類かの部品を組み合わせて、麺の形に仕上げるのが、「蕎麦を打つ」工程だということができます。
特殊な粉は、麺の形につなげるのが難しい場合もあります。普通の人が打ったのではつながらないような蕎麦粉を、見栄えも食感もいい蕎麦に仕上げるのが、職人の腕です。

そのために、蕎麦職人は、試行錯誤を重ねて、自分なりの方法を編み出します。
 ある人は蕎麦粉の状態を完璧に管理するために、蕎麦粉を入れた「木鉢」の上で、水を加える直前に、ふるいをひと振りして微調整します。

 また別の人は、麺棒で大きくのした蕎麦を、手のひらで激しく叩いたりします。こうすることで、蕎麦のつながり具合をコントロールするのです。
 個性的な蕎麦を打つためには、独自の技が必要になるのです。

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東京・神田の『眠庵』では、粗挽きの粉をつなげるために、のして広げた蕎麦を、激しく手で叩く。
『眠庵』 (ねむりあん)
東京都千代田区神田須田町1-16-4
TEL.03-3251-5300

店それぞれに、求めるものは異なる

 特殊な蕎麦が良くて、普通の蕎麦が悪いと言っているのではありません。店それぞれにお客さんがいて、店ごとに必要とされる蕎麦は異なるのです。その具体的な例を挙げてみましょう。

写真の白い蕎麦は、ある江戸の老舗の看板商品で、白い蕎麦の代表ともいえる一枚です。美しい白い麺に仕上げるために、蕎麦を打つ際、ソバの実の黒い殻の部分は、まったく入れないように気をつけています。
 ソバの実の殻をむいた「抜き」の外側の部分さえ、色が濃くなるのを嫌って、使わないようにしています。甘皮を含む「抜き」の外側の部分は、蕎麦の風味が最も強いところとされています。風味の強い部分を使わないので、蕎麦切りの色は白くなりますが、必然的に香りの薄い蕎麦になります。中心部分の蕎麦粉を使った麺の特徴として、質感はサラッとなめらかで、淡白な食味の蕎麦に仕上がっています。

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それと対照的な、色の黒っぽい蕎麦。写真の黒い蕎麦は、在来種で名高い福井県の、ある蕎麦店の一品です。
 製粉の方法は、殻をむいたソバの実と、殻がある程度残った状態のソバの実をブレンドして、石臼で挽きます。細かく挽いた粉と、ゴツゴツの粗挽きにした蕎麦粉をブレンドして、麺に質感の異なる部分を作り出します。こうすることで、舌触りや硬さ、噛み心地などに幅を出しているのです。

 この両者は、どちらが良いとか、悪いとかいうものではありません。どちらも、すばらしい蕎麦です。
 白い蕎麦を供している老舗の主人は、次のように言います。
「私どもの蕎麦は、お米でいえば精米した白米のようなものとお考えください。お客さまによっては、一日に何度もいらっしゃって、ご飯がわりに、お蕎麦を召し上がります。その日の気分で種物になさったり、あるいは胡麻だれで召し上がったりもなさいます。ご飯でいえば、おかずを変えて召し上がるということでしょうか。蕎麦の香りが強すぎたり、個性がありすぎると、たまに食べるのにはいいのですが、ご飯がわりにするのは難しいのです。毎日食べても飽きない蕎麦。それが私どもの、伝統の蕎麦なのです」

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 一方の黒っぽい蕎麦は、蕎麦の持つ香りや甘みを、損なうことなく麺に移して楽しみたいと徹底的に追求した、これもまた見事な蕎麦です。さきほどの米に例えれば、玄米を炊いたご飯に相当するといえるでしょう。味も、香りも、栄養も、ソバの実に含まれる魅力は、すべて、この黒い麺の中に凝縮されています。口に入れると、ガツンと頬を張られたような衝撃を覚える、強い個性の蕎麦です。

 このように、明確な目的をもって作られた蕎麦は、いずれも優れた蕎麦であり、それを待っている客がいます。
 現代の日本には、白い蕎麦から黒い蕎麦まで、蕎麦職人の数だけ、蕎麦の個性が存在するのです。その中から、自分の好みにあった蕎麦を探すことができる私たちは、恵まれた時代に生まれついたといえるのではないでしょうか。

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