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『国産そば粉十割 そば処 あいづ』(千葉県

安房の地で、拘りの「会津そば」を味わう
レポート提出者:藪竹庵さん

今回紹介させていただく当店に至る道程は、最寄駅から、といっても結構な距離があります。先に紹介させていただいた『家族庭』さん同様で、駅から25分ほど。普通クルマで来られるか、房総の里山と海を眺めつつ、のんびりとハイキングする気持ちで訪ね歩くのが似合いのロケーションにあります。小高い丘の上にある関係で、県道から全容が見えないので、少し注意が必要です。(蕎麦が売り切れると、幟旗も引っ込んでしまいますが)

11打ち場.jpg当店は、開店してから1年半と少し。伺うところに拠れば、昨年の東北大震災の直後からということですが、勿論開店に向けての店舗の準備など様々進めて来られた中で、震災が起きてしまった。しかし、お店は計画どおり開店されたということでした。

 国内のみならず、「蕎麦Web」に世界に誇る『郷土蕎麦』と紹介されているとおり、会津地方はいたるところハレの日のご馳走として、「会津さらしな」と呼ばれる独特の粉を用い、各ご家庭で普通に十割そばを打つということです。実際、身近に会津若松始め何人かの福島県出身の方に聞くと、各家庭で誰かが蕎麦を打っているということでした。それだけに、土地の方は地元でとれるソバとその製粉技術、さらに独特な(十割蕎麦の)打ち方について、大変なプライド(言い換えれば拘り、誇り)を持っておられるように感じています。そして、地元以外ではかなりな努力を払ってもなお難しい条件として、清冽な水が豊富にあることが、資料の随所で述べられています。

 当店主は、北海道に生まれ、生家ではお蕎麦屋さんを営まれていたということです。店主は、当時ご両親が提供する蕎麦が「機械打ち」であるのを目の当たりにして育ちますが、自らはそういうお店の後を継ごうとは思わなかったと言われます。その後の詳細までは伺っておりませんが、偶然に会津地方の坂下(ばんげ)町に手打ち技術の教えを受ける機会を得、「会津さらしな」の十割蕎麦の技術を習得されたそうです。

私は、会津も坂下もいまだに訪れた経験がありません。今後是非訪ねて、会津の蕎麦を提供してくれるなるべく多くの場所と店を食べ歩いてみたいと強く願ってはおります。しかし、経済とチャンスに恵まれず、今のところ精々HPなどで情報を辿りながら、眺め渡り歩くしかありません。

 例えば、坂下町のHPを拝見すると、観光ガイドの中で「幻のそばを探せ」というタイトルのあるページにおいて、珍しい『そば口上』の紹介に続き、地元にお住いのお二方の蕎麦(ソバ)についての熱い思い、「粉」に対するこだわり、独特な「打ち方」そして「水」への強烈な思い入れに接することが出来ます。

拝見するに、この土地のこの蕎麦は、ここでなければ味わえない、というように見えてきます。会津の蕎麦だけではないでしょうが、『郷土の蕎麦』と言われているものは、確かにその土地の風土に丸ごとすっぽり包まれて、初めて「郷土」を冠する意味が分かるものなのかもしれません。

 また、喜多方市のHPには、会津蕎麦の独特な打ち方、「湯捏ね・水捏ね」をはじめ、定番の「江戸流」始め、「会津流」及び「宮古流」という珍しい打ち方が画像で紹介されています。会津流では湯(水)回しや「くくり」のタイミング、手延べの面白さと併せて、捏ね上げた玉を伸ばす時の巻き棒(=延べ棒)で、生地を台にトントンと打ちつけて広げて行く独特な所作を具に観察することが出来ます。宮古式も湯(水)回しと括り、そして蕎麦玉を幾つか均等にちぎり分けて各々を延ばし、それらを重ねて切るという独特な技法を教えてくれています。もし蕎麦打ちに興味がある方でご覧になっておられなければ、是非にとお薦めしたく思います。

 店主は、ある方の紹介を得て、そういう土地(坂下町)に修行に行かれた。そこで店主が師事された師匠がどういう打ち方を店主に伝授されたかは、残念ながら私は知りません。店主が言われるには、師匠は蕎麦打ちの師匠であると同時に、蕎麦粉を提供される「粉挽き名人」でもあるということです。つまり、会津の蕎麦を「会津さらしな・十割」として成り立たせている基本条件は、打ちの技法はもちろん、『原材料(=「会津のかおり」)をどう製粉するか』にもかかっているということなのです。従って店主は、今日でも定期的に坂下町の師匠の下を訪ね、師匠が製粉した蕎麦粉を直接買い受けておられるそうです。さらに、師匠の粉が入手できなくなれば、「店もやって行けなくなる」とも伺いました。

 会津の蕎麦には、そういう強烈な求心力、オリジナリティーがある。多分その力には、会津に長く暮らして来られた人たちの心の奥深くに、延々と伝えられてきた遺伝子のようなもの、そこから引き剥がすことのできない根源的なものが与っているに違いない、そんな思いがあります。(類似の印象を、かつて岩手の蕎麦についても抱いたことがありましたが、本稿では割愛します。)

 

【蕎麦】

光沢のある透明感に富む細打ちの蕎麦は、ごく淡い茶色を帯びていま3-1鴨せいろ.jpgす。この蕎麦には、外殻はもちろん、甘皮の黒色や萼の茶色い斑点等は混じりません。打つ粉、除外する粉をサンプル瓶に入れ、比較できるよう見せてくださいます。見た目に僅かに残る夾雑物混じりの部分は捨てられるそうです。結果4-2もり拡大.jpg的にやや「江戸蕎麦の『さらしな』」に近寄った印象ですが、坂下町のホームページを参照したところでは、丸抜きを挽いた何割かを「経験則に基づいて」篩で分離するようであり、「石森製粉(株)」の如く(蕎麦漫画「そばもん」単行本第7巻中、第54話~55話も参考になります)篩って、篩って...の連続行程から機械的に得られるものではないようです。

そして、なにより十割でこれほど麺線が細く、しかも途中で切れることなく十分な繋がりを実現していることに驚かされます。当然食感はかなり独特のものです。柔軟性に富み、弾力もあり噛みしめて多少のモッチリ感もあるようでいて、スパッと噛みきれる。元より細いので、スルスルツルツルとのど越し良好に滑り落ちて行きます。果たして当店において、会津の土地で供される蕎麦の公約的な蕎麦に出会えているのでしょうか。是非会津に行き、あちこち食べ歩きして食べ比べしながら確かめたいものです。江戸さらしなにおいては、甘み以外は寧ろ排除するかもしれませんが、会津地方においては、「さらしなは変わり蕎麦の原料ではない」、という自負もあってか、蕎麦の香りがふわりと漂うことを特記したいと思います。

 

【汁】

当地にしては辛めの汁と言えるかもしれませんが、藪系のように厳しさを伴うものではありません。やや塩辛いかな、という程度。

原材料の選定についての口上はありませんが、伺ったお話の中で、傍に(経営上の観点からして)そこまで上等のものを使うのかと言われるくらいに、得心の行く材料を選んでおられるそうです。

 

【ロケーションその他】

さて、この土地を入手されたことについて店主に伺ったところ、特に狙ってのシチュエーションではなく、巡りあわせとか、流れの中で決まったと言われます。店主ご夫妻も、私と同様外部からの移住ですが、当地の環境については十分満足されているようです。地域の日常活動にも積極的に関わられ、ご多忙の日々と見受けました。田舎では、共同でする作業が沢山あります。血縁よりも濃いといわれる地縁は、共同で援け合う日常の行事、作業や触れ合いに由来し、強められそして維持されているのです。

それにしても、郷土蕎麦に挙げられる「会津蕎麦」の打ち方を現地で修業し、原材料も坂下町の生産・製粉者に求め続ける、まさに会津地方と一蓮托生のお店、それがどうして安房の地で開店されたのかという疑問は払拭できていません。それを理解できるようになるには、まだまだこちらの人生修行が足りないのかもしれないと思いつつ、なるべく繁く通い詰める必要がありそうです。

13店からの風景.jpg店主の言われるには、あとは「会津の清冽な水が欲しい」と。そう言われれば、私の故郷である新潟県魚沼地方では、本邦随一の豪雪が例年野山を覆い、それが溶けて山肌に浸み込んでは滲み出る大量の水があり、それは自然林の土壌で磨がれ、ミネラルに富む「名水」となり、各所でふんだんに湧出していました。当然ですが、そういうものは入手できる条件が非常に難しい。説得力のある言葉です。会津地方はその意味でも豊かな土地であるということでしょう。

 

店名『国産そば粉十割 そば処 あいづ』
電話番号0470?44?1154
住所千葉県南房総市千倉町川戸1054-8
アクセスJR内房線 千倉駅から徒歩20分~30分
営業時間昼のみ営業 11:30 ~ 15:00 ※ 売り切れじまい
定休日毎週火曜日 及び 第3月曜日
平均的な予算(昼)昼  1000円 前後
平均的な予算(夜)
予約不可
クレジットカード不可
個室
席数15~6席(カウンターを含む)
駐車場有 6台
禁煙禁煙
アルコール一切無し
ホームページ
34.9800672,139.9399863

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