美味しい蕎麦をもっと愉しむための蕎麦情報ウェブマガジン

　一度行ったら忘れられない印象的なお蕎麦屋さんは全国に複数ありますがこのお蕎麦屋さんも私にとってはそのひとつです。
　住所は岐阜の各務原となっていますが、風情のある城下町が賑わう愛知県の国宝犬山城。その城の裏側、川を挟んだ道を少し歩き一度曲がると...こんなとこに？　という場所に知る人ぞ知る蕎麦屋さん「蕎麦まつも」があります。どうやら川が県境のようです。

　その外観は家を改造して店舗にしているようですが美味しそうなオーラが出ている気がします。これは行かなきゃ！とその前に、この店に行くには注意点があります。昼に行く分にはいいのですが、夜は予約がひとつも入っていなければ開店しません。また、何も言わなければ蕎麦は人数分の十割せいろしか残していないので(昼で売り切れてしまう、サイドメニューはOK)十割以外の蕎麦を食べたい方は予約時にちゃんと言っておく必要がありますのでご注意下さい。
　
　私が初めて訪れた時はそれを知りませんでしたので目当ての、せいろ、田舎、しらゆき、変わり、粗挽きの5種が入った5色盛りそばは食べれませんでしたが、他にも満足できるメニューが沢山ありますので特に問題ありません。その夜はたまたま予約していたのが私達一組だけだったのですが嫌な顔ひとつせず、店を開けて温かい接客をして頂きました。接客して頂いたのは店主の母親らしく、ボケ防止に使ってくれと親孝行で店主が呼んでくれたというなんともハートフルな話も聞けて気持ちもほっこりです。
　そんな店主ですが店内には様々な山の写真があり、点々と登山をしていたの事。なんでもとことんやってみたいという性格らしく、その好奇心が蕎麦と出会い、蕎麦を溺愛、弟子入り、修行し独立したとの事でした。好奇心が存分に向けられたこだわりの蕎麦...いいですね。蕎麦職人はそうでないと！　期待が高まります。

　さて私達が注文したメニューは・地酒・そばがき・鴨たれ焼き・十割せいろ・蕎麦雑炊です。他にも食べたいメニューが沢山あり、ガレットなんかも興味がそそられましたが二人という事もあり断念。ですが注文したメニューはどれも名物と言える程の逸品、おいしいお酒と会話に時間も忘れるほどでした。

　新そばが届いたばかりの時期でしたので、十割せいろは香りが強く透明感があり、切りも丁寧。拘った蕎麦というのが隅々に出ています。そばつゆはしっかりしているものの甘みもありカツオの風味。どっぷりとつけてもくどくならないバランスで美味しいです。粗挽きも美味しそうだなと次回に思いをはせつつ満足に食べる事が出来ました。それ以外にもこだわりの鴨肉はぷりぷりでジューシー。そばがきは蕎麦風味の爆弾のようで、焼き海苔に薬味と一緒に包んでおもちのように食べます。うまい！かなり印象的。

　そして最後は蕎麦雑炊...そばの実と鴨つくねの雑炊ですが、生姜風味で手作りの鴨つくねがたっぷりと入っており味の深みと整い方が凄い。その出汁をふんだんに吸い込んだ蕎麦の実がまたたまらない。この雑炊だけで店ができるんじゃないかというぐらいタイプな味で何杯も食べたくなるほどでした。

　何にでも言える事ですが、好きという気持ちを持ち続けることが拘りを生み、いいものを作るんだなと改めて思いました。話を聞いてると一度食べてくれたお客さんはわざわざ遠方からでも何回も足を運んでくれる方が多いそうです。なるほどと納得の味に、私もその一人に加わりそうです。またこれからも定期的に来たいと思える、そんな店でした。ごちそうさまです。