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味禅(京都府

磊落なご主人の人柄も蕎麦の味に添加。
レポート提出者:ふくちゃんさん

  地下鉄四条駅から狭い仏光寺通りを西へ、平日なのに有名飲食店前に作る若者達の行列や一方通行の車をすajizenn_002[1].jpgり抜けながら歩くこと約5分。とある十字路を左に折れると、すぐに「そば 大素馬鹿」と書かれた空充秋氏作・逆U字型の特徴ある石積みの門が目に入る。今日のお目当ての蕎麦屋「味禅」である。これが二度目の訪問だ。

  店に入ると正面に蕎麦打ち台、その横で電動石臼が独りゴロゴロゴロ・・のんびり回って白い蕎麦粉が少しづつ挽き出されてくる。ゴロゴロゴロ・・・。たった一跨ぎの距離なのに、今まで居た外界の喧噪とはまるで違う異空間がそこにあった。開店時間を少し過ぎたばかりのためか客席は疎ら状態。奥まった隅の空席に許しを得て座る。見渡すと5卓18の椅子席と小座敷6人部屋が見える。二階には宴会用の個室があるらしい。

 

  八海山の純米吟醸一合と"信州直送"と品書きにある"豆腐"を先ず注文する。冷酒が空腹の体内を乱暴に駆け巡る。「アァ・・」・・・と思わず声。日本人であることに感謝する瞬間だ。生山葵をちょこっとつけて豆腐を頂く。ややねっとりとした食感で切れの良い八海山との相性は抜群。「もう一杯」と言いたいところだが、ここは我慢のしどころ。頃合を見計らって、今日のメインディッシュ"ざる蕎麦"を大盛りでお願いする。店員さんの話では、北海道・幌加内産蕎麦粉の九一だという。

 

  待つこと約5分、運ばれてきたのは微かにグレーがかったやや細切りの"ざる蕎麦"、大盛りにして良かったと思う10_26_1165_edited-1[1].jpg程度の盛り。少しつまんでそのまま口に入れてみる。香りは薄いが弾力性のあってコシが強い、私好みの蕎麦というのが第一印象。噛むと僅かに押し戻されるような感覚が歯に残る。このテクスチャーが堪らない。

  昨夜、予約をした際に頼んでおいたので程なくご主人の日詰正勝さんが顔を出してくれた。早速、「以前より切りが細くなったのでは?」と問うてみた。すると「最近粗挽きの十割を打つ機会が多く、そのせいで少し細くなっているかも」と言って人懐っこい顔を少し崩した。

出汁には白葱とすりおろしたばかりの山葵が付いている。鰹の効いた濃い口の出汁、蕎麦がやや細切りなのでつゆ絡みがいい、たっぷりつけるのは控えることにしよう。「11月からは信州・安曇野の蕎麦粉になります」と日詰さんが言う。それでは「来月は田舎の十割を頂くとするか」・・・。

蕎麦湯は別拵えをしたポタージュ系。たっぷりと頂いた。

 

  日詰さんは19年前44歳で脱サラ、ほとんど独学で蕎麦打ちを身に着け独立、当年63歳。日詰さんは活動家でもある。開店間もないころ、山科の毘沙門堂の庭を借り切って"蕎麦の野点"を京都の同業者と共に4年間挙行して話題を呼んだ。転居前のお店が太秦の映画村近くだったため映画人のお客も多く、渡辺謙さんに乞われてフジテレビ「御家人斬九郎」に"蕎麦打ち職人"として出演をしたこともある。店内に貼られている当時のポスターを指さして「髷もなかなか似合いますね」というと「必死でした」と照れ笑いを見せた。

 

日詰さんの性格は豪放磊落にも見えるが、蕎麦は繊細で求道派といえよう。「美味しい蕎麦を打つことが増客の秘10_26_1170_edited-2[1].jpg訣」が口癖で、醤油・みりん・砂糖・鰹節・昆布等の材料に徹底的にこだわり、自店のホームページに材料のブランド・等級をすべて公開するほどである。毎朝6時から仕事場に入り、毎月仕入れの"丸抜き"の製粉を始めるという。

お店は奥様とお手伝いの女性の三人で切り回している割には"品書き"はバラエティーに富んでいる。店主おすすめの「ざるそば」に加えて「冷やした抜き(関東風)・おろしそば・ひやしきつね・ざるとろ・なめこおろしそば・かき揚げ天ざる・鴨汁そば」が、"温かい蕎麦"には「鳥なんばん・にしんそば・てんぷらそば」が用意されている。前日までの予約制(5人以上)だが、「生粉打ち蕎麦」(更科・田舎系)や「そば寿司・そばつくし料理・信州鍋」を楽しむことも出来る。家族連れなどには最適かもしれない。"一品メニュー"も豊富で、例えば、田舎の香りのする「四万十川瀬のり」、京都らしい「ゆば衣ぽん酢風味」、季節感のある「水なすのさらだ」(5~8月)・・等々、隅々まで日詰さんの目が行き届いているのが嬉しい。

蕎麦前を楽しむ左党の面々には、焼酎・日本酒・ビールが各種揃っていて楽しませてくれる。蕎麦屋は"男の寄生木"だといったら世の女性達から叱られることになるのだろうか。現に私の隣の席も真向いも女性客だ。

 

そろそろ満席になったようだ、長居は無用と立ち上がろうとすると、すかさず「またいらっしゃい」と奥から日詰さんの声がかかった。蕎麦屋という別世界に遊んだ幸せを噛みしめながら、再び喧噪の町を潜り抜けて家路についたのである。

店名味禅
電話番号075-352-1051
住所京都市下京区新町仏光寺下る岩戸山413
アクセス京都市地下鉄四条駅下車、仏光寺通りを西へ徒歩約5分
営業時間昼  11:30~14:30 夜  17:30~21:00
定休日日曜日、第三月曜日
平均的な予算(昼)1000円~1999円 
平均的な予算(夜)3000円~3999円
予約
クレジットカード不可
個室
席数36席
駐車場
禁煙喫煙可
アルコール
ホームページhttp://www.ajizen.com/
34.9876552,135.7555334

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