「亀岡の山中に美味しい蕎麦屋がある」と聞きつけて、早速妻と一緒に車で出掛けた。国道171号線から茨木・亀岡線に入り山中を北上する。対向車も無い中をナビと睨めっこの60分に些か疲れを感じ出した頃、ようやくそれらしき風情の古民家を見つけた。畑とこんもりした林に囲まれた典型的な農家風の一軒家。目を凝らすとやっと目に入る程度の小さな看板(木の板)に"いし田"とある。
玄関を入るとすぐ左に「蕎麦打ち場」がある。人気が無いので躊躇していると奥から「お上がり下さい。お好きなところへ」と、女性の声がかかる。靴を脱いで上がる方式。4部屋ぶち抜き(障子・ふすま)でそれぞれの部屋にテーブルと座布団が置かれている簡素でくつろげそうな雰囲気だ。先客がいないのを良いことに奥の作業場に一番近い部屋に通る。どの部屋からも畑の緑が見渡せる農家らしい開放的な空間だ。
お品書きを見ると「ざるそば800円、やまかけ950円、天ざる1300円、ざるそば定食1100円、天ざる定食1700円、(予約制お二人より)おいしいお昼ごはん1500円、ゆっくり晩ごはん2000円、亀岡牛すき焼き4000円、猪なべ4000円」とある。ご自慢は、二八蕎麦と自家栽培の米(きぬひかり)を使った「ご飯」のようだ。他にご主人が自ら由良川で釣ってきたというアユの塩焼きもある。
先ずは「ざるそば大盛り」(大盛りは400円増・・1200円)を注文。妻は「天ざる定食」(1700円)を選んだ。蕎麦は二八のやや細切り、香りは薄いが硬めの仕上がりで喉越しは極めつきに良い。角も良く出た歯ごたえのあるしっかりした蕎麦だ。普通盛の方が良かったかと思ってしまうほどボリュームもたっぷりある。出汁は鰹味の効いたやや濃い口、細切りの蕎麦によく絡んでいる。山葵・白葱に大根おろしが薬味、お好みで使い分けられる心配りが嬉しい。妻の天婦羅は「南瓜・獅子唐・タラの芽・海老」にご飯と蕎麦がつく。昼食にしてはやや豪華かな? 海老を除いて全て自家製という。締めのポタージュ系蕎麦湯にと満足の止めを刺される。
「美味しかったですよ」と作業場に声をかけると、ご主人の石田孝博さんが顔を出し、幸いお客もいないので話に付き合ってくれた。「私も趣味で時々蕎麦打ちをやるんですよ」と軽くジャブを打つと、「蕎麦職人とお客」という建前の壁が音もなく消えて、蕎麦打ち仲間のような打ち解けた雰囲気が漂い始めるのを感じる。蕎麦屋ならではの醍醐味と言えよう。
「40年勤めた会社を58歳で早期退職をして蕎麦屋を始めたんですよ。今年で丁度5年になります」。京都の有喜屋で修業し技術を身に着け、現在も「師範コース」を続けているという。退職前から好きな蕎麦打ちを趣味で習っていたのだがいつの間にか本職になってしまったとのこと。「最初は蕎麦のつながりが悪くてぶつぶつに切れていたのですが、よくお客さんが付いて来てくれたと思います」と内幕もチラリ。「蕎麦粉は北海道・幌加内の二番粉で、京都の製粉会社から仕入れています」という。もともと農家だったが現在は知人に託し、石田さんは蕎麦屋に専念している。また江戸時代の石門心学開祖・石田梅岩(出生地:東別院町付近)の縁につながる旧家でもあるそうだ。
この間来客があったのだが石田さんは蕎麦打ちの話に夢中、奥さんの注意でようやく作業場に戻るといった、とても話好きで人懐っこいご主人だ。「鄙には稀な」といえば叱られようが、期待していた以上の蕎麦に巡り合い、ご主人との会話も楽しむことが出来て、まずは充実した一日であったと自賛。「出かけて来て良かったなあ」とは帰りの車の中での妻との会話であった。
【写真の説明】
店名 | いし田 |
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電話番号 | 0771-27-2092 |
住所 | 〒621-0103京都府亀岡市東別院町東掛19 |
アクセス | (自動車)国道171号線より茨木→亀岡線を約60分北上、東別院小学校横。 |
営業時間 | 昼 11:30~14:00(平日) 11:00~15:30(土・日・祝日) 夜 予約客のみ |
定休日 | 毎週 火曜・水曜 祝日の場合は営業、但し翌日休日 |
平均的な予算(昼) | 1000円~1999円 |
平均的な予算(夜) | 2000円~2999円 |
予約 | 可 |
クレジットカード | 不可 |
個室 | 無 |
席数 | 約25席(全て座席なので融通が利く) |
駐車場 | 有(7台) |
禁煙 | 禁煙 |
アルコール | 有 |
ホームページ | 無 |