美味しい蕎麦をもっと愉しむための蕎麦情報ウェブマガジン

　三重県道37号、通称鳥羽松阪線沿いにあるお蕎麦屋さんです。松阪市の中心部から鳥羽よりに約5ｋｍ程のところで、道路脇に割と大きめの看板が立っているため、わかりやすいです。 

　清潔感と、どこか気取らず親しみやすさに溢れる和モダンの店内は、けっして広くはないのですけれど、天井が吹き抜けになっていたり、観葉植物が効果的に配置されていたりして、大変くつろげます。お店自体は平成6年から営業なさってみえるそうですが、昨年の5月にリニューアルオープンされたみたいです。席は、お座敷4人掛けが2卓、テーブル席4人掛けが2卓、カウンターが4席の計20席です。 

　お伺いしたのは、平日の19時前でした。まだお若いご主人は、ちょうど先客の方々のお会計をされてみえたのですが、済まされるとすぐに我々の着いたテーブル席へお茶（そば茶）を運んで下さいました。どうやら、この日はおひとりで切り盛りされているようです。 

　蕎麦専門店にしては、良心的な価格の並ぶメニュー表。非常にお腹が減っていたため、ひそかに心躍った私達でしたが、さらに喜ばしいことに、揚げそばの黒蜜掛けを頂きました。こちらは、来店されたお客さんにサービスで付くお品だそうです。ささやかな心遣いが素敵で、嬉しいです。 

　早速、ざる蕎麦を特盛りに、冷鴨蕎麦を大盛りにして、単品からは、海老と野菜のかき揚げ、そして最後に、かけ蕎麦をお願いしました。

　少々お時間を頂きますとにっこり微笑まれたご主人が、厨房に戻られてからほどなくして、次々とお品が運ばれてきて、テーブルの上が華やかになりました。 

　こちらのお蕎麦は、石臼挽きの八ヶ岳産蕎麦粉を使用した二八の太打ち田舎蕎麦です。器に盛られたその姿は、特盛りということもあるのですが、大変迫力があります。細かい星の散った黒っぽく太いお蕎麦、それでいて瑞々しさと透明感があり、みるからに弾力に富んでいそうな佇まい。
　口に運ぶと、その期待通りの幸福感が待っていました。香りは控えめながらも、力強いコシとじんわりと舌に感じる穀物の甘味、しっかり噛んで楽しむお蕎麦。少し甘めに仕上げられた汁との相性は抜群です。その汁も蕎麦猪口とは別の容器にたっぷりと添えられているので、前半はシンプルに、後半は薬味の葱と山葵とウズラの卵を全て汁へ入れて頂きました。くせになりそうな美味しさでした。
　目の前の妻も、自身が注文した冷鴨蕎麦を笑顔で食しています。こちらは、そばの上にローストされた鴨肉が5枚のっていて、ぶっかけスタイルで頂くお蕎麦です。薬味には自家製の柚子胡椒が添えられています。鴨を一切れもらったのですが、皮に焼き目が入っていてパリッと香ばしく、美味でした。 

　また、単品でお願いした海老と野菜のかき揚げは、2人前で20㎝ほどの見事な大きさがあり、運ばれてきた際には思わず、妻と歓声をあげてしまいました。

　別添えの特製甘だれで頂くのですが、サクサクの衣に閉じ込められた野菜の甘味と海老の旨みが、タレの深みのある味と渾然一体になって、最高に美味しかったです。妻と二人であっという間に食べてしまいました。 

　そして最後は、かけ蕎麦。しっかりとしたコシのある太打ちの田舎蕎麦は、冷たいざる蕎麦で味わうときとはまた違った魅力となり、かけ汁とあわさることで、その強い食感が出汁の味をひきたて、丁寧にとられたであろうお出汁が、やさしく身体に沁み渡りました。 

幸福なひとときでした。 

　我々の帰りがけ、厨房でおひとり片づけに勤しんでおられたご主人がお会計に出てこられました。レジ脇の壁に「持ち帰り用の年越し蕎麦の注文承り中」との張り紙があります。これから年末にかけ、一層お忙しくなることでしょう。お身体に気をつけて乗り切って頂きたいです。