2015年、晴れて国宝に指定された松江城のお膝元、松江市は殿町にあるお店です。殿町に住む親族を年に1、2度訪ねる時に、毎度おじゃましています。平成6年創業。一時、別の場所(蓬莱荘)に移られていましたが、島根県民会館前のもとの場所に戻られました。また、松江駅前に「殿町 一色庵」という支店を出されていましたが、こちらは今年(2015年)に閉められたそうです。まだ夏の暑さが残る9月の半ば、出雲名物"割子そば"を求めてうかがいました。
お店は古民家の味のある建物です。入ってすぐのところにテーブル席もありますが、ほとんどはお座敷席で、靴を脱いであがります。創業当初から、地元民に愛されているお蕎麦屋さんですが、近年は観光客の方も多く見られます。この日もお客の半数以上は、他県から観光にいらした方々のようでした。12時過ぎにうかがいましたが、常に満席状態で、店内はたいへん賑やかです。
席につくと、まず、蕎麦湯と「だし」(東京ではつゆと言いますが)が出てきます。蕎麦湯はトロトロとしていて、濃厚です。蕎麦湯を飲みながら壁に貼られた品書きを見て、この日は「小判割子そば」をお願いしました。
注文をしてすぐに、薬味(ねぎ、刻み海苔、鰹節、大根おろし)とともに、こんどは蕎麦湯に卵白を溶いたものが出てきました。これに刻み海苔やねぎとだしを少し入れて、スープのようにいただきます。蕎麦をいただく前の蕎麦湯づくし。カリウムやビタミンB郡をたっぷり身体に取り込んで、ウォームアップは万全です。
お話好きのご主人と、よもやま話をしていると、いよいよ「小判割子そば」が来ました。"割子そば"とは、段重ねの漆塗の割子(破子)に少しずつ蕎麦を入れて、薬味とだしを蕎麦に直接かけて食べる出雲地方の郷土料理。今回注文した「小判割子そば」は、江戸時代から使われているという、黒い八雲塗の小判型の割子(3段重ね)に入っていて、趣があります(ちなみに、こちらのお店の通常の「割子そば」は、丸型の赤い漆の割子に入っています)。
一般的に"出雲そば"といえば、奥出雲などの地元産の玄蕎麦挽きぐるみ粉(石臼挽き)を使用し、黒っぽい見た目が特徴ですが、こちらのお店の蕎麦はやや色白です。なお、産地は長野産と北海道産のブレンドで、つなぎの小麦は1.5割とのことでした。
表面がさらっとした細切りの蕎麦は、だしをかけるとほんのわずかに粘り気がでます。薬味とだしをよく絡めてたぐれば、するすると喉を通ります。気持ちの良い喉越し。穀物感のある蕎麦の風味と薬味の香りと、だしが絶妙に調和して、"うまみ"が口の中で爆発します。
1段食べ終わるごとに、器の底に残っただしを次の段にかけて、さらに薬味とだしを足していただくのが割子蕎麦の食べ方。ただし、薬味は食べ始める前にあらかじめ分けて乗せてしまい、1段目は全種類バランスよく、2段目は鰹節と海苔を多めに、3段目は大根おろしとねぎを多めに・・・と自分好みに調整していただくと、3段違う味を楽しむことができます。
薬味の他に、生卵を追加するのもおすすめです。はじめから生卵のついている「小判三昧割子そば」というものもありますが、「小判割子そば」を頼んだ場合でも「生卵ください」言えば、持ってきてくださいます。生卵を掻いて混ぜると、蕎麦の香りは弱くなりますが、甘さとコクがさらに増します。
"うまみ"の決め手となる、醤油の味が前面に出ただしには、2年間熟成させた再仕込みの醤油を使用しているそうです。濃い目ですが、まろみがあり、蕎麦、薬味と混ぜたときの相性は抜群です。箸がどんどん進み、気がつけば、あっという間に3段ぺろりと平らげてしまいました。
あらためて"出雲そば"を見直してみると、様々な薬味を入れて食べる"割子そば"や、茹でた蕎麦を水洗いせずに器に盛り、蕎麦湯をかけて食べる"釜揚げそば"など、栄養バランスに優れた蕎麦の食べ方であることが分かります。おいしく、健康も手に入れられる、一石二鳥の"出雲そば"は、一見ならぬ一食の価値ありです。
店名 | 一色庵(松江市) |
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電話番号 | 0852-31-7180 |
住所 | 島根県松江市殿町123-1 |
アクセス | JR松江駅から市営バスぐるっと松江レイクラインで10分 松江城(大手前)下車すぐ |
営業時間 | 11:00~16:00 |
定休日 | 火曜日(祝日の場合は営業) |
平均的な予算(昼) | |
平均的な予算(夜) | ~1000円 |
予約 | |
クレジットカード | 可 |
個室 | なし |
席数 | 35席 |
駐車場 | なし |
禁煙 | 禁煙 |
アルコール | あり |
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