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東白庵 かりべ(若宮町)(東京都

洗練された「田舎せいろ」
レポート提出者:そばきりすずめさん

 今はなき「竹やぶ 六本木ヒルズ店」で店主を務められていた苅部政一さんが、2011年に独立して神楽坂に開かれた「東白庵 かりべ」。自宅から近いこともあり、1年で最もうかがう回数が多いお店です。冬の足音が聞こえる11月の、しとしとと雨が降る土曜の昼下がりに、新そばを求めておじゃましました。 

karibe-1.JPG お店は神楽坂の路地裏の奥まったところにあります。木製のアプローチを進んで店内へ。一歩お店に足を踏み入れると、木材の異なる板を張り合わせた床に、煤竹のパーテーション、1枚板のテーブルとロココ長の椅子が並べられた、モダンで温かい空間に包まれます。山の中の別荘にいるような、時間がゆっくりと流れ、都心にいることを忘れさせるような雰囲気です。視線をあげると壁には苅部さんが修行された柏「竹やぶ」の店主・阿部孝雄氏が彫られた軸が掛けられています。 

 席について、まずは生ビールをいただきます。お通しはそば豆腐。わさびがちょこんと乗せられて、甘辛いだしに浸ったかわいらしい見た目のそれは、もっちりとしていて噛むほどに蕎麦の味がふんわりと口の中に広がります。そば豆腐をいただきながら、お品書きをじっと眺めて悩んだすえに、この日は「そばかき」と「海老の味噌焼き」、"季節のおすすめ"から「カキの天ぷら」と「季節の野菜天ぷら」をお願いしました。 

karibe-2.JPG 最初に出てきたのは、このお店の名物ともいえる「そばがき」。上品にまとめられ、濁りの少ない湯に半身浸かっています。つゆをつけて口に入れると、メレンゲやマシュマロのようにふわふわとした食感で、噛まないうちにほろりと溶けてしまうようです。そばがきというより、「そばスフレ」と呼べるような、軽やかな仕上がり。時間が経つと粘度が増してもちもちとしてくるので、最後までこの絶妙なマシュマロ食感を楽しむためには、少し急いでいただくのがポイントです。 

karibe-3.JPG 絶品のそばがきを食べ終わった頃に、「海老の味噌焼き」が来ました。タイミングよく出されるお料理から、花番さんの心配りを感じます。「海老の味噌焼き」は、才巻海老を高温で揚げて、味噌に漬けた一品。色鮮やかな海老は殻つきですが、頭から尻尾までまるごとパリパリ食べられます。ぎゅっと凝縮された海老の甘みと、味噌とほのかな磯の香りがたまりません。ビールがすすんで、追加でもう一杯お願いしました。 

 つづいて、「カキの天ぷら」と「季節の野菜天ぷら」が来ました。品書きでは「カキ」という表記でしたので、「柿」か「牡蠣」か、どちらかしら・・・と思っていたら、牡蠣でした。赤い漆器の上に3つ、少し厚めの衣で包まれた牡蠣が乗せられていて、まるでお殿様に出される料理のような見栄えです。すだちを少し搾ってかぶりつけば、さっぱりとした酸味の後に、ミルキーな牡蠣の味が追いかけてきます。食感はふわっとしていました。一方の「季節の野菜天ぷら」は、薄い衣でサクッと揚げられています。野菜のカットが大きいのが特徴で、野菜そのものの味や食感をそのままにいただけます。この日使われていた野菜は、蓮根、ごぼう、かぶの3種でした。8月におじゃました時は、ズッキーニ、オクラ、赤玉葱で、歯を立てた瞬間にじゅわっと旨み汁が溢れる肉のようなズッキーニが衝撃的だったのを覚えています。今回は特に、4分の1大にカットされたかぶが、みずみずしくてジューシーでした。野菜の芯まで火を通し、水分をたっぷり閉じ込めたまま、サクッと揚げる技は見事です。 

 さて、いよいよ蕎麦を注文します。「納豆そば」や「にしんそば」にも惹かれつつ、基本の「せいろそば」に、「追加そば」で「田舎せいろ」をお願いしました。いずれも生粉打ちです。

karibe-4.jpg まずは「せいろそば」からいただきます。細く切りそろえられた蕎麦は、ため息が出るほどきれいです。盛りは少なめ。盛りが多いとどうしても食べ終わらないうちに麺が乾いてふにゃりとしてくるので、最後の1本までおいしくいただけるこのお店の量は、ベストなボリュームだと思います。すっきりとした水きりの締まり具合がちょうどよく、テクスチャーは滑らかで、つるつると喉を通ります。食べ物では使わない言葉ですが、「淡麗」の2文字が浮かびます。ほわっと香る上品な蕎麦の甘さ。まろやかながらもすっきりとしたやや辛めのつゆが、蕎麦の"うまみ"をさらに引き立てます。 

 「せいろそば」を完食し、つづいて「田舎せいろ」を持ってきていただきます。「玄そばを皮ごと石臼でひいている」とあり、麺の中に星がはっきりと見えます。こちらも「せいろそば」と同様に、細く切りそろえられています。つゆをつけずにたぐると、ぶわっと、芳醇な蕎麦の香りが鼻を通ります。「せいろそば」よりもコシがある食感で、きりりとした清涼感もあります。「田舎」の文字に似合わず、洗練されている蕎麦のギャップ。個人的には「田舎せいろ」のほうがより印象が強かったです。 

 居心地の良い空間で、ゆっくりお酒を楽しんで、最後にバランスのとれた端正な蕎麦をいただく。料理や蕎麦を通して感じる丁寧な仕事に、心満たされ、ちょっと贅沢な気持ちになるお店です。

店名東白庵 かりべ(若宮町)
電話番号03-6317-0951
住所新宿区若宮町11-7
アクセス有楽町線・南北線「飯田橋駅」神楽坂出口徒歩10分
営業時間平日 :昼11時半 ~ 14時半(LO)/夜18時 ~ 22時(LO) 日祝 :11時半 ~ 21時(LO)
定休日水曜日
平均的な予算(昼)3,000円~6,000円
平均的な予算(夜)
予約可能(コースのみ)
クレジットカード
個室あり
席数22席
駐車場なし
禁煙禁煙
アルコールあり
ホームページhttp://touhakuan.jp/index.html
35.7004349,139.7392764

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