美味しい蕎麦をもっと愉しむための蕎麦情報ウェブマガジン

　平成２４年１２月２日、日曜日の午後２時少し前に入店。山手通りから目黒川沿いにほんの少し入った場所、外階段を降りたビルの地下に入口がある。そのため、通りに黒色の看板はあるものの目立たず、いわゆる町の蕎麦屋さんのつもりで店を探すと通り過ぎてしまう。旅館や料亭のような趣のある入口。中に入ると右側に打ち場があり、さらに奥に進み戸を開けるとカウンター席と個室がある。禁煙席を希望したので、さらに奥へ奥へと案内される。

　通された客席はモダンで、まるで外国のホテルにある和食レストランに来たような感じ。大きなガラスの外には庭が広がり、室内にはソファーがいくつも並んでいる。床は焼き物のタイル、塗壁調の壁にはモダンな絵も掛けられている。各テーブル席は会社の応接セットのようだ。小さな子供にはソファーは少し座りにくい感じもする。なので、子供連れの場合にはカウンター席か個室の方が良いだろう。

私は温かい『すだちそば』、妻はコースの『昼御膳』を注文。温かい蕎麦は太切りとのこと。昼御膳の蕎麦は、細打ちせいろ、かけそば、荒挽き田舎の中から選べるので、基本の細打ちせいろを選択した。

『すだちそば』は人気メニューの一つだそうだ。輪切りのすだちが一面に載っており、良い香りが食欲をそそる。あまり長く入れておくと苦味が出てくるとのアドバイスに従い、すだちは１分程で取り出した。汁を一口飲んでみる。何とも言えない爽やかな感じ。実にすっきりとした自然の酸味はまるで真夏に飲むスポーツドリンクのようで、とても喉越しが良い。もうこの汁だけでも良いくらい満足してしまった。

次に『すだちそば』の麺を頂く。普通の蕎麦より少し太い感じで、程良く柔らかい。麺の量はやや少なめ。男性であれば、もう少し欲しいところ。後半、一緒に出された『黒七味』を少しかけてみたが、味が締まったようで、また違った味わいが楽しめた。

『昼御膳』の内容は、野菜料理２種、季節野菜の天ぷら盛り合わせ、それと蕎麦。まず出された野菜料理は、トマトやブロッコリのジュレがけ、大根の味噌田楽の２品。ジュレは甘酸っぱく、田楽は甘辛く、どちらも美味。天ぷらは、レンコン、くわい、赤かぶ、椎茸、ごぼう。荒塩で頂く。どれもカラッと揚げており、そこそこボリュームもあって、食べた感じがあり良好。

　いよいよ『細打ちせいろ』を頂く。蕎麦はもちろん細めで、口にすると『ヌルッ』とした感じがあり、いくらか硬めであった。ただ、その硬さも始めだけで、口の中でプツッと簡単に切れ、あとは柔らかくなった。すんなりと喉を過ぎていく。香りも感じられた。一方、蕎麦つゆは鰹だしの辛口。最近食べた蕎麦屋の中では一番か二番かとも思うくらいの濃い辛口だ。つゆの量は少なめ。つゆに蕎麦をほんの少しつけて食べる感じで十分。口の中で蕎麦つゆのストレート感が楽しめる。蕎麦の量は、天ぷらがあるので足りるような気もするが、蕎麦好きの私はもう少し欲しいところ。

　そして最後に蕎麦湯。白色であり、蕎麦の味がしっかりと感じられる濃さである。見事なまでに『どろっ』とした濃厚な蕎麦湯はポタージュスープのようであり、そのまま飲んでも美味しかったが、辛口の蕎麦つゆを割ると、それは見事な味に変化した。蕎麦湯と出汁の相性がピッタリであり、蕎麦湯が口の中で味が広がり、旨さが膨らむ感じであった。このために濃い辛口の蕎麦つゆだったのか･･･と思わず納得してしまう不思議な美味しさだった。

　まとめとしては、一つ目の特徴は、『店全体がモダンで大人の雰囲気』であること。『土山人』の名は陶芸家の名に由来するそうで、そのため、どの器も凝っており、魅力的である。芸術的な絵や庭が会社の接待やデートの場を大いに演出してくれる。大衆店に比べると値段が若干高めだが、大事な接待やデートの最後に蕎麦を頂く･･･という状況であれば十分納得できる。二つ目の特徴は、やはりポタージュスープのごとく『濃厚な蕎麦湯』であろう。濃い辛口の蕎麦つゆとの相性は最高である。癖になりそうだ。次回の訪問が今から楽しみである。

【こうしていただけたら、うれしいという、お店への提案】

子供連れの家族でも気軽に入れるような工夫が欲しい。小さな子供の場合、ソファーに座ると背中が反り返ってしまい、前かがみになりにくく、食べにくい。庭の見える席で家族が楽しめるよう、テーブルを一部変えるか、子供用の椅子があると良い。

【写真の説明】

1　趣のある入口

2　打ち場

3　蕎麦つゆ、薬味、塩、黒七味、魅力的な器

4　すだちそば

5　細打ちせいろ