美味しい蕎麦をもっと愉しむための蕎麦情報ウェブマガジン

2012年11月7日（水）、買い物客で賑わう砂町銀座商店街。

その中ほどから100mくらい入ったところにある一軒家が今回訪問する【夢想庵】。

　玄関先にかかる暖簾をくぐり店内に入るとすぐ、左の足元にケースに入った手挽きの石臼。右側に打ち場、左側に厨房。照明のおとされた店内に先客は一組。この日は妻を伴って来店。

厨房の見える席につくと、お茶と揚げ蕎麦が出される。テーブルに置かれたメニューを開き、一通り目を通してから注文したのは...

・手挽き田舎蕎麦（週替わりで丸抜きの手挽きせいろあり）
・搔き揚げ天せいろ（妻）

先客の注文の品は出終わっていたようで、すぐに搔き揚げを上げる音が聞こえ始め、ほどなくしてまずは搔き揚げ天せいろが妻のもとに。

搔き揚げは直径約１０ｃｍ、高さ約５ｃｍくらいの大きさ。サックリと軽やかな揚げ具合で、油切れも良い。一方の蕎麦は北海道大雪山系のキタワセの新蕎麦。細めの"九一"で切りムラ僅かで長さも充分。通常１５０ｇのところ"増量キャンペーン中"とのことで、料金据え置きで１８０ｇに。　

熟してから刈りいれたものなのか、薄緑色というより淡いクリーム色で、ひと手繰りさせてもらうと、まずは香りの豊かさに驚く。新蕎麦特有の"若草"の様なフレッシュな香りではなく、どちらかといえば穀物系の香り。香りを嗅いだだけでこの蕎麦は「うまい」と思いました。

口に含むと思った通り！噛んで口中に広がる落ち着いた甘味と馥郁たる香り。
飲み込んだ後にも蕎麦の甘味が持続します。久しぶりに素直に美味しいと思える蕎麦に出会えました。

その蕎麦に合わせるおつゆは、辛めのおつゆを出すお店が多い中、珍しく甘めのおつゆ。少々甘ったるい感じを受けたものの、出汁はしっかりと引かれ、この味であれば蕎麦を半分くらい漬けて食べるとちょうど良い味と濃さ。

妻が搔き揚げ天せいろを食べ進めていると、厨房から御主人が我々の席にやってきて申し訳なさそうに、「すみません。今日の田舎蕎麦、ちょっと切れやすくてうまく茹でられないので、せいろにしていただいてよろしいですか?」とおっしゃる。

ちょっと残念な思いはあったものの、切れて短い蕎麦を食べるよりはちゃんと繋がった蕎麦を食べたいと思ったのでせいろをお願いするも、田舎蕎麦の味も気になる。

図々しいとは思いつつ、ダメ元で「先ほど茹でた田舎蕎麦、少しでいいので味見させて頂けますか？」とお願いすると快く受けて頂いて、なんと、ほぼ一人前を笊に盛って出してくださり、なんだか逆に申し訳ない気分になってしまいました。

その田舎蕎麦は、せいろと同産地で、細打ちで、少々荒目の仕上がり。早速食べてみると、思ったよりも長さはあり「少し短いかな？」という程度。せいろを食べたときの印象が強かったために、もっと香りも味も「濃い」蕎麦を期待していたものの、実際はそれほどではなく少々物足りなさを感じてしまったのが素直な感想。しかし、細打ちのために喉越し良く、サラッと食べてしまえる田舎蕎麦でした。

御主人のお人柄、供された蕎麦、お店の雰囲気など全体的にまじめな仕事ぶりが見て取れ、変な商売っ気を感じさせず、蕎麦マニアから普通に食事として利用するような方々にも愛される良店だと思います。

【写真の説明】

・夢想庵入口
・手挽き石臼
・搔き揚げ天せいろ
・田舎蕎麦