美味しい蕎麦をもっと愉しむための蕎麦情報ウェブマガジン

（根津・鷹匠 2012.8.1 14:30-15:30）

■いただいたもの：
・生ビール（エーデルピルス） \525
・冷酒：四季桜（本醸造）\735
・盛り合わせ（玉子焼・板わさ・もろきゅうなど）\735
・せいろ（二八蕎麦） \945
・深山（みやま：田舎蕎麦） \945

ここは、建築業界風にいうと女流アトリエ系ソバ店。
一般用語でいうと、ダンス・スタジオならぬソバ・スタジオ、あるいはソバ工房。

 
自己研鑽のために打っているソバや開発中のソバを工房見学者の方には特に食べていただくこともできます、といった雰囲気。しかも、ここは朝7:30開店という、出勤前に本格手打ち蕎麦がいただける希有な店。なのに、飲食店としての商売っ気が全く感じられない店。自己表現としての蕎麦ふるまい。

 店構えは、根津と谷中の区界の道(昔の藍染川の跡)の根津=文京区側の旗竿敷地の奥の戸建住宅。初めてだと入口を見落としやすいので注意。

 実は、ここはご近所なので、開店当時は何度か寄らせていただいたが、夜はやらないし、休日の昼は混んでいたり、売り切れ御免で早仕舞いの日もあったり、近くに、もう一件、負けず劣らず美味しい蕎麦屋が開店したこともあって、その後、なかなかうかがう機会がなかった。数年ぶりの訪問となった。

 2012年8月1日（水）14:30、細い路地を通って引き戸を開けて、こんにちは〜。入ってすぐ右手の蕎麦打ちブースの前のカウンター、一番手前、入口の際に坐る（あ、今日もまた、昨日の並木の藪と同じような一番隅の席）。

 ４ページ構成のビニールのカバーのついたA5サイズのメニューを拝見。まずは、生ビール（エーデルピルス）と（おつまみの）盛り合わせを注文。あわせて、せいろ（二八蕎麦・細打ち）と深山（田舎蕎麦）も頼んでおく。

 ビールには、きゅうりとみょうがの刻んだものがつく。ゴクゴク、ゴクゴクゴク、ゴックン、プハーッ。今日も暑いからビールが旨いっ。３口でビールのグラスは空になってしまったので、冷酒：四季桜（本醸造）を追加注文。

 冷酒と盛り合わせが同時に到着。盛り合わせの構成は玉子焼き・板わさ・じゃこの炊いたもの、その他〔写真〕。いずれも、家庭的なやさしいお味。冷酒のお猪口が、口の開いた型なのがよろしい。胸の中に拡がる清々しく芳醇な酒の風。

 ＊なお、このお店の蕎麦前の酒肴としては、焙炉で軽く炙っていただく「干しわかめと海苔の焙炉セット」や「焼きみそ」で日本酒をいただくのも楽しい。しっかり食べたい向きには、汲み上げ豆腐や煮物もある。蕎麦がきも、釜あげ蕎麦がき、揚出し蕎麦がき、磯辺蕎麦がきの３種と豊富。甘味としては蕎麦がきぜんざい、蕎麦粉のチーズケーキが女性に人気。

 盛り合わせを食べ尽くす頃、「せいろ」が到来。並木の藪よりはやや太い、松屋よりはやや細い、中細の麺。色は薄いベージュの並粉色。水々しい茹でたて。数本つまんで口に運ぶと、ピュルピュル、パピュッ、ツツツツッと喉を通って行く、あっぱれ二八らしい喉越しのソバ。角のピンとした、ややプリッとした弾性を感じるソバだが、上の前歯と舌、あるいは下唇で挟めばプツッと切れる、噛まずに喉を通るソバ。喉を通った後にほのかな蕎麦の香り。麺線の太さも硬さも微妙に不揃い。その不揃いが舌触り喉越しの揺らぎ感となって心地よい。これぞ手打ちの食感。

 汁は、ダシの香りの豊かな、かえしの塩気は控え目の味わい。ソバを全部漬けても食べられるし、半分だけつけて食べてもちゃんと後味の残る、丸くてしっかりした味。薬味はネギと大根おろし。おろしとの相性の良い汁と蕎麦。蕎麦猪口が、この細打ち麺には、手に重たいように感じたが、深山蕎麦には釣り合うのだろう。

 続いて、深山。幅5mmほどもある太いグレーのソバ。モチモチ、シコシコ。以外に角が立っている。ツルツルと啜ることは難しい。箸で口の中に運んで、よく噛んでゴックン。噛みしめて味わう蕎麦。口中と鼻腔に拡がる蕎麦の薫り。正直、初めて食べた時はウドンノヨウダと思って違和感がありました。が、一度食べると、なぜかまた食べたくなる味わいと食感。蕎麦の（というか蕎麦粉の）深い味わいと薫りを楽しむには、蕎麦掻きもいいけれど、この深山蕎麦は歯ざわりも楽しめてうれしい。メニューには書いてないが、二八と深山のハーフ・アンド・ハーフ（二色そば）もあるので、これなら両方のお蕎麦が楽しめます。

 深山（田舎蕎麦）で満腹になってお勘定。しめて\3,675（深山は汁無しおかわり扱いで来たので\200引き）。今度は、いろいろある酒肴や鴨せいろで、お酒をじっくり楽しもう。日曜朝から蕎麦酒ってのもいいですねぇ。じゃあ、またうかがいます。どうもご馳走さま〜。