(並木藪蕎麦: 2012.7.31 13:20-14:10)
■いただいたもの:
・ビール中瓶
・板わさ
・日本酒 ぬる燗
・ざる2枚
・玉子とじ
食味体験レポート第1回は、蕎麦食味の原点を確認しておきたくて、蕎麦界の頂点として世評の高い「並木の藪」にうかがうことにした。実は、これまで、神田の藪、池之端の藪には何度か行ったことがあるのだけれど、並木の藪にはまだ行ったことがなかったのです。
2012年7月31日(火)快晴。真夏の照り返しの強烈な陽射しの中、地下鉄都営浅草線雷門側出口から出て、信号を渡り、細い道を西へまっすぐ行くと、並木通りの西側に佇むお店は、ちょうど正面。漆喰が白くまぶしく、正面の妻壁にかかった額には大きく黒々と「藪」の一文字。迷いようもなく、先様の方から目に飛び込んでいらっしゃいます。
13:20・入店。満席ではありましたが、ちょうど、ふた組の先客が勘定して帰りかけているところ。小上りの座敷の上がり框にちょっと腰掛けて、1-2分ほど待っていると、入って右手の土間、一番入口側のテーブルの手前壁際の席(相席)に案内される。
テーブル上にお品書き(メニュー)はない。商っている品目と値段が書かれた紙の札が右手の壁の鴨居から下がっているだけ。私の坐る一番手前の壁際の席からは、お品書きの札がよく見えない。注文したものの値段も記録しそびれてしまった。
暑い日だったので、まずはビールと板わさを注文。あわせて、ざるそばも頼んでおく。ビールは小瓶にしたかったが、選択の余地なく中瓶。銘柄は忘れた。エビスじゃなくて、キリンかサッポロだったような気がする。コップが薄手の小ぶりなものなのがうれしい。ごっくん、ごくごく。暑い日はビールがうまい。
間をおかず、板わさが来る。箸袋に入っていない素の割り箸が膳(角盆)に乗っている。余分なものは、どんどん省く精神はよろしい。でも、箸袋を持ち帰れないのがちょっと残念。しっかりとした、上質のカマボコ。味、食感、香りなど、とがったところのない、あまり自己主張をしない、余分なところ、過剰なところのない、もちろん不足なところもない、シンプルで素の味わい(ただしワサビが粉っぽいのが残念)。 ビールをグイグイ飲みながら、あっという間に4切れをつまんでしまう。ビールが中瓶でよかったよぉ。
絶妙のタイミングで、ざるそばが来る。裏返したザルに盛られたソバ。口の開いた、やや大ぶりの蕎麦猪口。持ちやすく、汁の滴が飛び散りにくいように、ということか。
麺線は細目、明るいベージュ色、ひと水切れた状態、やや硬め、歯と舌では切れない。神田の藪のような噛まずに飲み込める蕎麦ではないが、一回噛めば喉をスルッと通っていく。噛むことでおのずと香りと味わいを楽しめるソバ。かすかな苦味というか渋みというか、蕎麦のアクのような味わいも感じられる。十割なのか、外一か、そこは私にはわからないのだが、そういうことと関係なく、余分なところも不足なところもない、ど真ん中、ストレート、豪速球のソバ。
もり汁は、なるほど、濃い味わい。蕎麦猪口に直接口をつけると、ダシの香りも感じられるほどのしっかりとしたダシ汁が、力強いが決して尖ってはいないカエシの塩味・甘み(と、かすかな酸味)とバランスしている(あるいは、ややダシが勝っているのか...)。ダシは鰹節だけでなく、宗田節か鯖節なども使っているのか。
ざるそばは5口ほどでたいらげてしまったので、追加で、ざるのおかわりとぬる燗の酒を注文。
一枚目のざると一緒に蕎麦湯も出ていたので、ここで、ちょっと早いが、もり汁を蕎麦湯で割って鑑賞。蕎麦湯は湯桶ではなく益子焼風の陶器の大きな急須に入って出てくる。このお店の蕎麦と汁の味にマッチした、さらりとした、濃すぎない蕎麦湯。
酒が白木の枡を袴にした白い徳利に入って来た。口の広がった浅めの白い猪口。酒を口に吸い込むとき、同時に猪口の水面を渡ってきた杉の香りを含んだ風が口と鼻からすうっと吸い込まれる。うまい。ちょうど良い形と大きさの猪口。そうだったよねぇ。猪口はこういうのでなくっちゃ。
お酒には、そば味噌がついてくる。ねっとりと甘い味噌の中には、胡桃かなにかのカリッとした食感の粒が入っている。菊正宗の樽酒とあいまって、口の中、舌の上の蕎麦のアクを消してくれて、二枚目のざるを迎える口洗いとしてなかなかよろしい。やっぱり蕎麦には日本酒だねぇ。
ざるの二枚目をいただいて、なにか温かい蕎麦も食べたくなって、玉子とじ。
玉子は、糸のようにはなっていない。幅2-3センチの幕状に拵えられている。これはこれで、玉子の味と香りがしっかり感じられてよろしい。海苔は玉子の下に隠れていて姿を見せぬまま、玉子と一緒に口に入ったり、汁にほとびていってしまうが、香りと味で、きちんと存在感を示している。蕎麦も、別に延びるような感じもせず、玉子を絡めながら、あっという間に喉から胃袋に。
海苔の溶け込んだ甘汁の加減はおいしく、全部飲めてしまいそうだったが、半分ほど飲んだところで、ふと思いついて、蕎麦湯で1.5倍程度に薄めてみたらコクも味わいも香りも消えてしまったので、それ以上、飲む気がなくなってしまった。もったいないことをした。最後に残った汁をゴクゴクと全部一気に飲んで、フーッと大きな息をつきたかったのだが。玉子とじの汁は薄いと旨くないと聞いていたが、そのとおりと実感。満足してお勘定。4千ン百円。安くはないが高いとも思わない。不粋に二人前食べちゃったわけだし。およそ50分間の参禅のような蕎麦体験。店を出た時には、なぜか背筋も伸びておりました。(レポートしなけりゃ、ということで、いまいち寛げなかった事もあるけれど)
始めてうかがった並木の藪は、蕎麦の拵えだけでなく、新装なった真白な店構えから、白壁と白木の内装、白木のテーブルや椅子、お品書きから箸袋に至るまで、余分なもの、過剰なものを削ぎ落とし、メニューも絞りこんで、簡にして素の境地をめざす、江戸蕎麦の伝統の頂点、正しい蕎麦を正しくいただく修行の場なのでありました。
店名 | 並木藪蕎麦 |
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電話番号 | 03-3841-1340 |
住所 | 東京都台東区雷門2-11-9 |
アクセス | 都営地下鉄浅草線・浅草駅から徒歩約3分 |
営業時間 | 11:00-19:30 (通し営業) |
定休日 | 木曜 |
平均的な予算(昼) | 1000円〜2000円 |
平均的な予算(夜) | 1000円〜2000円 |
予約 | 未確認 |
クレジットカード | 不明 |
個室 | 無 |
席数 | 椅子席16、座敷20 |
駐車場 | 無 |
禁煙 | 禁煙 |
アルコール | 有、ビール、菊正宗のみ |
ホームページ | なし |