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虎ノ門大阪屋砂場(東京都

華族様・士族様・官員様御用達:江戸蕎麦の本流
レポート提出者:やまかけさん

(虎ノ門砂場 2012.09.11 16:50-18:00)

 ■いただいたもの:
・ 生ビール
・  日本酒:田酒(特別純米)ぬる燗
・  (突き出し)昆布佃煮
・  板わさ
・  焼き鳥
・  もりそば
・  二色切り(変わりそば):すだち切り+太打ち

IMG_0419.jpgさて、薮御三家はひととおりうかがったので、次は、江戸蕎麦の元祖といわれる砂場系にお邪魔したい。1583年、大阪城築城のための砂置き場(つまり砂場)に「蒸蕎麦」を食べさせる店を開いたのが菓子屋の和泉屋(中氏)。この中氏が江戸に移って糀町に開いたのが元祖「砂場」という(江戸ソバリエ協会(編)『江戸蕎麦めぐり。』幹書房、2011、p.9.)。もっとも、この説には異論もあるらしい。とにかく、江戸時代中期には何軒もの砂場が江戸で蕎麦を商っていたことは確かなようだ。神田藪蕎麦の創設者、堀田七兵衛氏も、千駄木団子坂の藪蕎麦(鳶屋)の神田連雀町支店を譲り受けるまでは、蔵前で砂場系の蕎麦屋「中砂」を営んでいた、ということだから恐れいる(同書、p.20)。

 砂場の暖簾をかける蕎麦屋もたくさんあるが、まずは虎ノ門大阪屋砂場から。というのも、ここは地区再開発事業IMG_0423.jpgに巻き込まれ、もうじき閉店(移転)するというので、大正12年、関東大震災直前に竣工したという木造3階建ての風情ある家屋(2007年に改修)を味わっておきたかったからだ。

 愛宕下通り、西新橋交番前という交差点の北西角にうずくまるように佇むのが虎ノ門砂場。このあたり、江戸時代は、中小大名屋敷の集まる地域であり、明治時代は、華族様や高級官吏、実業家のお屋敷街となった。戦後は、霞ヶ関の官庁街に隣接することから、官庁の外郭団体やら業界団体やら、様々な事務所が入居する中小オフィスビルの集積する地域となったが、近年は再開発が進んで大規模なオフィスビルがにょきにょきと立ち上がりつつある。

 ちなみに、虎ノ門砂場は、創業明治5年。「糀町七丁目砂場藤吉」の養女、刈谷ヨソ氏が番頭の稲垣音次郎氏と結婚して開業したものという。現在のご主人は、砂場会会長でもあるという五代目、稲垣隆一氏(同書、p.10)。

 IMG_0424.jpg実は、このお店にうかがうのは初めてではない。昨年の夏、たまたまこの近くのビルに用事があった。午後2時過ぎ。約束の刻限の3時まで、ちょっと間があり、小腹も空いていたので、何か軽く食べようかと近くをひと回りしたところ、実に姿の良い蕎麦屋がある。しかも暖簾は砂場。思わず飛び込み、とろろ蕎麦をいただいたが、これが期待以上に旨い。時間があれば一杯やりながら、いろいろといただきたいところ、約束の刻限も迫ったので、他日を期すことにして店を出たのですが、当時は、蕎麦のことも、蕎麦屋のことも、何も知らなかったのですね。だから今日は雪辱戦(って、戦ってどうする)。

 シッカリとした重量感のある格子戸を開けると、角地の店だけに、3面の窓からの光が柔らかに入り、テーブルの面は明るくとも、目には強い光が入らない、落ち着いた、静かな空間。床面は黒いスレートの石張り。テーブルの天板はケヤキ。黒っぽい格子天井からは径3尺、丈1尺程度の提灯が下がって、照明を補う。1階はテーブル席のみ。2階に座敷もあるようだ。

先客は一組だけだったので、入って正面奥の、窓を背負った、一番良い席に着座。

花番さん達も、もの静かで、やさしく、丁寧なふるまい。通し言葉もひっそり。やっぱりお屋敷街なんだねぇ。帳場のIMG_0425.jpg女将さんはアラフォーの、ふくよかな美人。六代目の若旦那のお嫁さんかなぁ。まずは、生ビールをグラスで。つきだしは昆布の佃煮。そばつゆ味の濡れた細切り塩昆布。彫りのしっかりした塗りの仕事の良い折敷(角盆)に載ってくる。箸は江戸時代の黄表紙かなにかの挿絵をあしらった箸袋に入った桧の天削げ。箸置きは無し。オシボリはペーパータオル。ここは、最初に黙ってお冷が出る。ついでにいうと最後にそば茶が出る。

蕎麦前の酒肴は、板わさ。プリプリした、歯触りの良い蒲鉾。量もたっぷり。味は、うまみ調味料やや多めかと感じるが、これはこれでよろしい。ムシャムシャとパクつくべき蒲鉾。ホウレン草のおひたしが付くのも嬉しい。うんうん。気分が盛り上がってくる。

次の酒肴は焼き鳥3本セット。花番さんに、レバ入りかレバ抜きにするか尋ねられる。そういわれるとレバ抜きにしたくなる。串に通った柔らかな焼き鳥、3串。それぞれ部位が違うことは分かるが、正しい呼び名が分からない。タレはもちろんダシと味醂の効いた蕎麦汁。付け合わせの白髪ネギと良く合う味わい。追加した日本酒ぬる燗「田酒」(特別純米)とも良く合う。ハフハフ。グビッ。うーん、うまうま。

IMG_0429.jpg日本酒は八角形断面の外が紺、中が白の徳利と猪口で供される。菊正宗よりは、味わいの深い、ボディーのしっかりとした酒。ただし、味そのものは甘くも辛くもない、ただコクを感じさせる酒。うーん、いい酒だねぇ。あー、いい気分。

さて、もりそば。 薄いベージュ色。引きぐるみというより、並粉というべきか。細切り。断面は正方形。機械切りか手打ちかは不明。正確、均質な切り。並木藪よりは、むしろ色が濃く、池之端藪よりは色の薄い蕎麦。正方形のツノ蒸籠に、あまり水は切らず、やや濡れた状態で出される。薬味は粉ワサビとネギ。ネギには青いところも混じる。まあ、薬味は使わないので。麺線を数本つまんでいただくと、しゃきっと喉越しの良い二八らしい蕎麦。濡れているせいもあり蕎麦の薫りは、ごくほのか。

汁は柔らかなダシと味醂の効いたやや甘めの汁。コクはあるが、辛くもキツくもない。醤油の濃度が薄めに抑えてある。薄口醤油をブレンドしているのか。蕎麦を半分ほど浸けて食べても良し、蕎麦を全部汁にくぐらせても良し。どちらもイケる、蕎麦と汁の絶妙のバランス。水をよく切って、蕎麦と汁の相性を試してみたいところだが、それはまた今度ということで。噛まずに手繰って、ツツツッと喉を通って行く蕎麦の食感。口中から喉に飛沫のように飛び散り拡がる汁の薫りと味わい。うん、汁なんだ。蕎麦は、汁の乗り物。汁にやさしく包まれた蕎麦を喉で味わう。

蕎麦を食べ終って、汁を蕎麦湯(さーらさら)で割っていただくと、上品な吸物風の味わい。柔らかだが存在感の薄れないダシの味と薫り。ふーっ。なるほど。こちらの蕎麦は、蕎麦より汁が味の組み立ての軸になっているのですね。IMG_0430.jpg

さて、ここは、色々な蕎麦がいただけるのが特徴。せっかくなので、二色切りを追加。好きな組み合わせが選べるが、今日は、「すだち切り」と「太打ち」のセット。まずは、すだち切り。小ぶりの正方形のツノせいろに入ってくる。更科粉で打った極細外三くらいの白い麺線に、すだちの皮の緑の星が散らばる。汁は、先ほどよりさらに甘い御前汁。甘酸っぱい爽やかなそば。口中に拡がる秋の気配。すすっと喉に入って行く変わり御前そば。殿様気分。

次は太うち、グレーの田舎そば。十割ではなさそう。たぶん二八。もっちりとした太うち麺。5mm角、割箸くらいの太さ。ただし角は丸い。茹でる釜の火が強すぎるのか。なにしろ太いので、茹で方は難しそう。汁はすだち切りと同じものでいただく。味わいは、汁が御前汁なこともあり、ぜんぜん田舎臭くない。モチモチした食感と、蕎麦の薫りを楽しむための、お殿様用の太うち蕎麦。天ぷらなんかをさんざん食べた後の締めに良さそうな蕎麦。

 とにかく、ここは、メニューが豊富すぎて、レポーター泣かせ。ご飯ものもある。季節の天種もいろいろ。あれも、これも食べてみたい。飲んでみたい。まだまだ、少なくとも十回は通ってみないといけないようです。ちょっと家からは遠いけど、機会を作って何度も来よう。取り壊しになる前に。IMG_0431.jpg

店名虎ノ門大阪屋砂場
電話番号03-3501-9807
住所東京都港区虎ノ門1-10-6
アクセス東京メトロ銀座線虎ノ門駅から徒歩約3分
営業時間平日 11:00~20:00 土曜 11:00~15:00
定休日日曜・祝日
平均的な予算(昼)1000円〜3000円
平均的な予算(夜)1000円〜3000円
予約可(宴会予約可)
クレジットカード不可
個室2階座敷席あり
席数椅子席、座敷席、計約80席
駐車場
禁煙不明
アルコール各種:ビール(キリン、アサヒ)、日本酒(各種)、焼酎(各種)、ワイン
ホームページ正式HPではないが木鉢会のHPは下記:http://www.kibati-kai.net/02kamei/kameiten/toranomon_sunaba/
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