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かんだやぶそば(神田藪蕎麦)(東京都

不断の変化が不変の伝統:藪蕎麦の本家かんだやぶそば
レポート提出者:やまかけさん

(神田藪蕎麦 2012.9.5 14:30-16:00)
■いただいたもの:
・ ビール
・  日本酒
・  (突き出し) 蕎麦味噌
・  かまぼこ
・  小田巻蒸し
・  天抜き
・  せいろう

今日は、藪御三家の元祖、神田の藪蕎麦。明治13年(1880年)創業。正式には、カナで、「かんだやぶそば」(「ぶ」は変体仮名)というらしい。いよいよ、藪の本丸を攻略だーっ(攻めてどうする)。IMG_0402.jpg

 ここは、なにより、店の空間というか、音や風も含め、空気が良い。板塀に囲まれた小屋敷風の店構え。関東大震災直後(1923年)に佐々木芳次郎の設計により再建されたという和風木造の店舗。東京都選定歴史的建造物に選定されている。敷地の角の門から入って、前庭の石畳を7・8歩。3枚ガラス戸の玄関をカラリと開けると、女将さん、花番さん達が、皆で「いらっしゃい~」と迎えてくださる。船底型の天井の高い中央のテーブル席。正面向かって左手窓際には、大きなガラス窓越しに前庭を眺めながら、ゆったりとした籐椅子に座ってくつろげる4人掛けのテーブル席。さらにその奥は小上がりの座敷になっている。どの席も、窓から差し込む光と、天井からのやさしい照明のバランスが良い。無闇に明るくしない、でも、薄暗くもない、心地よい光と影の空間。そこに、地唄というか、百人一首を読むような、女将の通し言葉が店IMG_0405.jpgのすみずみまで響く。「お銚子いっぽ~ん、さかずきふたつ~、せいろう、いちま~い、とじ、いっぱ〜い」てな具合。

さて、今日は連れと昼そば酒なのだ。

 

まず、グラスで生ビール。グラスは、大きく藪と一文字書かれたコースターに載って出る。お約束の蕎麦味噌と、そば味噌の器に載った桧の元禄の割箸。箸袋、箸置きはなし。お盆(折敷)もなし。藪ではお約束の蕎麦味噌は、甘味を抑え、唐辛子のほのかな辛さを感じる、刻みゴボウ入りのもの。これだけで2合は呑めてしまえそう。蕎麦前の酒肴に、かまぼこ。ここでは、「板わさ」と呼ばず、かまぼこ。

かまぼこは、甘味、調味料控え目の、シッカリした味わいの良質なかまぼこ。1センチほどの厚さに切ったものを、さらに縦に3分割してある。箸でつまんで、山葵醤油をつけて、前歯で一回噛んで、2切に分けつつ連続的に口中に納めるという、蒲鉾を前歯で噛み切る快感を品良く楽しめる切り方。つまり歯型のついた蒲鉾の切れ端を人に見せずに済むわけですね。IMG_0407.jpg

 連れは、小田巻蒸し。この店の名目。ちょっとだけもらって食べると、良質な鶏卵と、吸物ダシより力強く、かといって辛すぎも甘過ぎもしない、上質な、蕎麦汁の風味豊かな茶碗蒸し。おいしい。日本酒の酒肴によろしそう。で、ビールの次は日本酒。ぬる燗。丸い袴を履いた白い徳利。小ぶりの、朝顔型の口の開いた猪口。この形の猪口が菊正宗には合うと思う。ほんとは、もうちょっと大きな方が、いっそう酒の香りがたつようで好きなのだけど。

 次に、天抜き。連れは、天だね。ここの天ぷら(かき揚げ)は、芝海老数本をゴマ油の効いた衣で色合い濃く堅めにカキ揚げ、油をよく切った、こんもり、サクサクしたもの。いつも、どれも、まったく同じ大きさ、形、そして、たぶん同じ味わいに仕上がっていることに驚く。蕎麦汁でいただくと辛すぎるように思えるし、汁でふやけた天ぷらが好きなので、私の好みは天抜き。かけ汁よりは、やや薄いかというぐらいの程よい汁に入ったかき揚げ。最初は、パリパリ、サクサク、しだいに、フヤフヤ、トロトロ。熱いエビ、とろけかけたコロモ、コクの効いた汁、の三重奏。そして、最後に、かき揚げの下に隠された蒲鉾一切れ。これが、なにか当りクジを引いたようで嬉しい。かまぼこを食べると油っぽくなった口の中が少しサッパリしたようにも感じる。汁も全部飲み干してしまう。フハーッ。

 そして、せいろう蕎麦。IMG_0409-2.jpg

 スノコが上に反りかえった長方形の蒸籠。これは、盛が少ないのをゴマカスためではなく、盛った蕎麦の水切れを良くするためだそうだが、とにかく、これも、この店の特徴。その蒸籠に、うっすらと品良く盛られたせいろう蕎麦。並木や池之端では、蕎麦を裏返した丸ザルに盛って出すので「ザルソバ」と呼ぶが、神田では「せいろう」。

 まずは数本つまんで味見。ふむ。今日の麺は、麺線が心持ち細くなったような気がする(従来の、やや平べったい切りベラ型から細い正方形の断面に) 。また食感も従来の喉越し重視のプリプリニュルニュルした、いかにも二八らしい麺線から、十割か外一の感じの、蕎麦粉が控え目ながらも存在を主張する、並木や池之端の藪に似た味わいの麺線になっている。色合いも、以前の緑混じりのグレーから、明るいベージュに、ちょっと緑がまざった色。水の滴る濡れた肌ではなく、ひと水切れた、さらっとした肌。

 蕎麦をちょっと噛んで飲み込むと、喉から鼻腔に抜けるほのかな蕎麦の薫り。やさしい蕎麦の甘み。前歯と下唇で切りながら、手繰って噛まずに飲み込む蕎麦ではなく、口中に啜り込んだら、上下の歯で1・2回ほど噛んで、舌や口の中全体で味を確かめ、薫りがひろがるのを楽しんでから、つッと飲み込みたくなる蕎麦。

 この方が旨いし好みでもあるが、神田の藪特有の、ちょっとニュルッとした、噛まずに飲み込める蕎麦をレポートしようとしていた当方としては、並木や池之端との比較論がしにくくなって、ちょっと困った。これは、どうしたことか。9月に入って、そろそろ出始めた新蕎麦の蕎麦粉にあわせた打ち方に変えたのか。あるいは、いよいよ5代目の味への転換が始まったのか。

 *実は、翌日の昼時に再度うかがって同じ麺線であることを確認したので、ちょうど帳場に仲良く並んだ女将さんと若女将さんに事情をうかがった。新蕎麦が入ったので、その蕎麦粉の性質に応じた麺線になったとのこと。なるほど。すると、これがむしろ神田藪蕎麦の本来の蕎麦の姿だったのですね。

 さて、せいろう蕎麦の蕎麦汁。蕎麦猪口に汁をちょっと入れて直接なめてみる。ほのかな、しかし、しっかりした鰹節の薫り。なめらかな辛さとコクとわずかな甘み。昆布ダシが入っているかどうかは分からないが、後で蕎麦湯で割ってみて味わうと、なんとなく昆布の味わいを感じる。気のせいかもしれないけれど。

 この汁に、つまみ上げた麺の下の方、3分の1くらいを浸けて、一気に啜りこむ。麺が新蕎麦なので、汁も、以前より穏やかな味にしているのか。やや味醂の優しさを感じる後味。以前のツルツル、ニュルンの豪快な喉越しで楽しむ蕎麦ではなく、ツツッ、サクッ、ススッと啜って噛んで味わって飲み込む蕎麦。繊細な口あたりと味わい、鼻に抜ける薫りを楽しむための蕎麦と汁。絶品。一気に5枚は行けそうです。

 さて、最後は、土瓶に入って供される蕎麦湯で残った汁を割っていただきます。蕎麦粉を足さない、あっさり、すっきりの、蕎麦の茹で湯。この方が好き。残った最後の酒をクッといただいて、ゴチソー様。あー、くつろぎました。「お発ちです~」の声を聞きながら帳場でお勘定して、「ありがと~存じます~、またおいで下さ〜い」の声で送り出してくださいます。はい。もちろん、また来ますとも。

店名かんだやぶそば(神田藪蕎麦)
電話番号03-3251-0287
住所東京都千代田区神田淡路町2-10
アクセス東京メトロ丸の内線・淡路町駅A3出口から徒歩約2分
営業時間11:30-20:00(L.O.19:30)
定休日お盆休み等不定期休業のみ
平均的な予算(昼)1000円〜3000円
平均的な予算(夜)1000円〜3000円
予約未確認(予約席を見かけることはある)
クレジットカード不明
個室なし
席数椅子席、座敷席、計約80席
駐車場
禁煙禁煙
アルコールビール(エビス)、日本酒〔菊正宗・特撰〕、焼酎(そば、米、麦)
ホームページhttp://www.yabusoba.net/
35.6971389,139.76845530000003

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