・一ノ蔵 冷酒
・(突き出し) 揚げそば甘酢あんかけ
・焼味噌
・せいろ
ここも実はご近所なのだ。よく寄せてもらうお店。
ものの本によると、世の中の蕎麦屋には、一茶庵系とか、竹やぶ系とか、ニューウェーブ系とか、いろいろ、新しい系譜があるのだそうだ。
そういう面では、今回のよし房や第2回レポートの鷹匠はニューウェーブ系、それも一茶庵系ということになるのだろうか。
もりそばを、中央が盛り上がった竹ざるに盛って出すこととか、酒肴のいの一番に焼き味噌があることとか、日本酒の品揃えにこだわりがあることとか、酒肴が豊富なこととか、ふつうの蕎麦の他に田舎蕎麦があることとかが特徴といえばいえそうだが、なかなか分類学も難しいので、とりあえず、こういう新しいタイプの蕎麦屋さんは、「創作蕎麦」系ということにしておく。
創作蕎麦系の他の系譜としては、砂場・更級・藪のいわゆる御三家につらなる老舗江戸そば系、戦後に展開した街場(まちば)のそば屋系(この2つは境界あいまい)、立喰系を想定しているが、もちろん、さらに細かく区分しようと思えば、いくらでも分けることができるだろう。
根津は「不忍通り」と「あかし坂」の交差する「根津神社入口」という交差点の北東の角、木造二階屋のお店。この場所は将来の道路拡幅予定地になっていて、背の高いビルやマンションは建てられない場所なのだ。
蕎麦屋を開くには絶好の立地、絶好の物件。
入店は夜の8時頃。ちょうど隅の落ち着けそうな場所の4人がけのテーブルが空いていて、その壁際奥に着席。
テーブルにはめいめいの席に角盆が置かれている。
客席と調理場の境にはガラス張りの蕎麦打ちブース。
電動石臼も置かれている。
このお店、蕎麦はもちろん水準以上のお味だが、なにより酒肴が豊富で旨い。
しかも、どれにも工夫があって、気持ちが弾む。
日本酒も多種取り揃えてあるし、椅子もちゃんと背があって長居しやすい。
とにかく、夜は、ゆっくり呑みかつ食える蕎麦居酒屋、というより蕎麦割烹。閉店時間は午後9時だしね。
このお店を営むご一家は、もともとは葛飾柴又の方で割烹料理屋を営んでいたそうで、息子さんが蕎麦打ち修行を積み、一家で根津に移って蕎麦屋を開業(2003年頃?)したという。
蕎麦を打つご店主のご両親の料理の腕もなかなかなのだ。
特に、開店当時は、母上様の手になると思われる天ぷらとお新香が絶品で、しかも山盛りの天ぷらが岡で付く天せいろが1,600円と抜群のコストパフォーマンスで、本格手打蕎麦の味とあいまって、一気に地域の人気をさらったものです。
でも、今夜はレポートのための味見なので、シンプルに、焼味噌で一杯やってから、せいろをいただくことにする。
まず、お酒は一ノ蔵の純米、冷酒。ガラスの徳利に入って、ガラスのお猪口と一緒に出される。
割箸は、中央に「凛」と朱い印を捺した紙の帯を巻いた桧の天削が白磁の箸置きとともにセットされる。
今夜の突き出しは、巣ごもり蕎麦のような、揚げ蕎麦の甘酢あんかけ。
これが滅法うまい。
酒肴は焼味噌。
ものの本では「一茶庵系」といわれる、竹べらに炒り抜きなどを練り込んだ白味噌を盛りつけて焼いたもの。
酒がすすむ。
普段なら、さらに、手づくりガンモだの、蕎麦サシミだの、鴨のハツ焼だの、天抜きだの、あれこれ取って、3合くらい呑んでしまうのだが、今夜は自重。ちなみに、ここの天ぷらそばや天せいろの天ぷらは、揚げたて天ぷらが山盛りになった皿が付く。天ぷら屋の天ぷらよりは厚めの衣がカリッと揚がったとても美味しい天ぷらなのだが、天抜きだけは芝海老のかき揚げで拵えてあって、これがまた揚げたてで熱々でも油っぽくなくて美味いのだ。
さて、おもむろに、せいろ蕎麦。ダシの薫りの立ち昇る、辛さ甘さの控えめな優しい汁。これも一茶庵系の特徴か。麺線は細目で並木の藪と同じくらい。以前は、もう少し太かったのだが、今年の6月頃から細くなった。手打ちか機械打ちか、わからないほど麺線は揃っている。が、角はそんなに立っていない。普通のせいろは機械打ちで、田舎蕎麦は手打なのかもしれない。小さな星の入った並粉色の麺、歯で噛まないと切れない、やや硬めのそば。今日の蕎麦は、やや釜が早いのか。水がよく切れていることもあって汁をタップリつけないと滑りが悪い。噛むとやや粉っぽいモソモソした感じ。汁にタップリつけて食べるとダシの薫りとも相性が良く喉を通りやすくなる。胃袋から立ち昇る、ほのかな甘い蕎麦の薫り。十割か外一か、あるいは二八か、あいかわらず私にはよくわからないが、この滑りの悪さは二八ではないように思える。
ここは、日によって、ソバの茹で加減や洗い、水切の加減にバラツキがあるのが課題といえば課題。もう少し長目に茹で、洗いでキュッと締め、一水切ったぐらいが旨いのではないかと思う。神田の藪のように、揚げたてで水が滴るようでも蕎麦の薫りが立たず旨くないし、今日のように茹で不足の乾き気味では歯触り喉越しが悪い。とはいえ3度に1度は、とても美味しく出来てくるので、やっぱり、ここはやめられない。また、今日のような蕎麦でも、蕎麦を汁にたっぷりつけて食べる、とろろや、鴨せいろ、この店のオリジナルという茄子汁せいろ(おすすめ)などなら、喉越しもぐっと良くなる。温い蕎麦なら何も問題なさそうだ。むしろ、こういう食べ方を想定して麺を調整しているのかもしれない。もり蕎麦の喉越しが命の藪系の蕎麦とはまた違った蕎麦を目指しているのだろう。
さて蕎麦湯で閉めよう。蕎麦湯は、茹で湯に蕎麦粉を足したトロッとしたポタージュ・タイプ。私の好みは蕎麦粉を加えないない、あっさりした蕎麦湯。というのも蕎麦粉を溶いた濃い蕎麦湯は蕎麦(粉)の味と薫りが強すぎて、せっかくの蕎麦の余韻を吹き飛ばしてしまうように思えるからだが...。もっとも、たくさん呑んだ後とか、天ぷらを山ほど食べた後は、こういうポタージュのような蕎麦湯も胃にやさしくて良さそうだ。
もうそろそろ、開店して十年になる頃だが、今なお、日々、工夫と研鑽を怠らない、ご家族で頑張っているお店だ。ただ一人で花番と帳場をつとめる細身の若女将(お嫁さん)も、きびきびと、かつ控え目な客あしらいで頑張っている。味も良いが、なによりご家族とお弟子さん達の意気が漲っているのが良い。一夜憩うと元気になれる店だ。
店名 | 根津 よし房 凛 (文京区) |
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電話番号 | 03-3823-8454 |
住所 | 〒113-0031 東京都文京区根津2丁目36番1号 |
アクセス | 東京メトロ千代田線・根津駅から徒歩約4分 |
営業時間 | (月〜土)11:00-15:00, 17:30-21:00 (日曜) 11:00-15:00 |
定休日 | 火曜 |
平均的な予算(昼) | 1000円〜3000円 |
平均的な予算(夜) | 1000円〜3000円 |
予約 | 可能 |
クレジットカード | 不明 |
個室 | なし |
席数 | 椅子席16 |
駐車場 | 無 |
禁煙 | 禁煙 |
アルコール | 有、ビール、日本酒(多数) |
ホームページ | なし |