美味しい蕎麦をもっと愉しむための蕎麦情報ウェブマガジン

　松阪市をはしる県道147号（通称：学園町通り）沿いにあるお蕎麦屋さんです。駐車場は店舗の前に4台あります。こぢんまりとした木の温もりを感じる店内には、カウンターが6席、6人掛けのテーブルが2卓（普段は2卓とも5人掛けにしてあるようです）割ときっちり並んでいます。オープンキッチンの厨房も、限られたスペースに必要な品々がきちんと配置され整っています。
　その中で、入り口右側の蕎麦打ち場は、座りながら打たれることも考慮しておられるのでしょうが、しっかりと広さを確保してあり、蕎麦に対する真摯な心意気を感じました。 

　私と妻が訪れたのは、夜の営業が始まってまもなく。既に先客の方が2名、カウンター席でそれぞれのお品を 召し上がっておられました。 席に着いた我々のもとへ、店主の母親らしき初老の方が温かく香ばしい蕎麦茶を運んで来て下さいました。改めて店内を見回すと、随所に、さりげない気配りがみえます。中でも目をひいたのが、お品書きです。素敵な和紙に記されたそれは、一輪の山野草の押花とともに、木製の額縁へ大切におさめられていました。お店の方の心遣いが伝わります。 

そ　のお品書きの中から、そばがき、天おろしそば　大、かけそば、天ぷら盛り合わせ　大、をお願いしました。 

　厨房からそばがきを捏ねるというか搗くというか、小気味良い音が響いてしばらくすると、我々の前に、汁に浸っている見るからになめらかでふわっとしたそばがきが運ばれてきました。箸で切りとり口に運ぶと、羽二重餅のような食感の後、ふわりと蕎麦の香りが鼻にぬけていきます。非常に美味でした。その後、天おろしそば、天ぷら盛り合わせ、かけそば、が次々とテーブルに運ばれてきました。 

　特筆すべきは、天ぷらの豪快さでしょうか。天おろしそばの天ぷらも、天ぷら盛り合わせのそれも、海老や野菜ひとつひとつが大ぶりで、咲いている花もゴツゴツした感じですので、非常に迫力があります。頬張ってみると、ザクッと音がするほどです。

　ザクッと天ぷらを齧り、その下にあるお蕎麦をおろしとともに勢いよく啜りながら食べていると至福の時が訪れます。こちらのお蕎麦は、すべて、信州・戸隠から届く挽きぐるみ粉を使った十割蕎麦だそうです。まろやかな関西風のつゆが、風味控えめながら、ほんのり甘味を感じるお蕎麦によくあいます。また、ワイルドな切り幅が生み出す食感も天ぷらに引けをとらず、結構ボリュームのあった大サイズにもかかわらず、あっという間に食してしまいました。
　妻のオーダーであるかけそばも、彼女曰く、薄味ながらも、コクと甘味をしっかり感じて、美味しかったとのことでした。 

　次のお客様が来るまでの少し手のあいた間にも、ご主人はてきぱきと厨房のちょっとした掃除や、打ち場の整理をされ、お母様は表の山野草のお水をあげたり、手入れをしたりされていました。いつもの当り前の作業をされているだけなのかも知れませんが、なんだか温かい幸せな食後感に満たされ、お店を後にすることができました。 ごちそうさまでした。